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浅草にて、たい焼きを食べる男 『日向あり故に我あり』



霜月の朝 わたしは旅に出る
それほど大それたものじゃないが
ポケットに小銭だけ入れて
気持ちを整える旅へと出かける

退屈な世界 彩りのない東京
閑散とした浅草をわたしは逍遥する
煙草すら吸ったことがない小心者だが
少しくらいは大人になっただろうか

永遠と続くわけではない命
無駄に過ごすのは勘弁だった
だからわたしは老舗の軒先で
熱々のたい焼きを買って齧った

好きな人間がいたわけではない
だけど日々移りゆく心を抑えきれず
独り悶々とする時間が続いていた
わたしは誰? と問いかけることもあった

答えはサイダーの泡みたいに弾け飛んで
結末まで辿り着くことはなかった
意味もなく枯れる花と同じ定めかと
月夜を見て悲しくなったこともあった

結局 正解などその辺に転がっているはずはない
熱々のたい焼きを食べて そんなことを思う
あんこはしっとりと甘く だけどほどよい
師走混じりの風が吹いて またたい焼きを欲す

ショートケーキよりも餡を求める
おいおい老けたものだと自分を笑う
まだまだ道のりは長いかもしれないが
わたしはのろのろと泳ぎ続けるだろう


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