蒼いユニフォームを纏って 3
それから僕たちは放課後になると、毎日のように小学校にある校庭でサッカーに明け暮れていた。僕らだけでなく、クラスの生徒はもちろん、他のクラスの生徒や他学年の生徒まで、総勢五十人以上で校庭を元気に駆け巡っていた。
その中でも一際目立っていたのがモーゼスだった。彼は大地を猛烈な速さで走るヒョウの如く相手を抜き去り、ダンスをするようなステップでフェイントをかけて騙していく。そして隙が生まれたら、すかさず矢を放つような鋭いシュートでゴールネットを突き刺していった。
「やべえよ。またモーゼスが決めたよ」
その場にいたほとんど全ての生徒は、モーゼスによる圧巻の身体能力についていけず、独壇場になるのを指をくわえて見ているだけだった。
「すごいね、モーゼス君」
帰り道。僕はいつもモーゼスを褒めていた。彼はその度に笑顔になって、「ありがとう」と丁寧なお礼を返してくれた。
「僕なんて全然活躍できないから、モーゼス君が羨ましいな」
「でも、カズ君も足速いし、ドリブルも上手だよ」
「え、そうかな?」
「そうだよ。だからもっと自信持ってプレーをすると良いと思うよ」
モーゼスからアドバイスは、その当時サッカー選手になることを夢見ていた僕の背中を強く押してくれた。
「ありがとうモーゼス君。僕ももっと頑張るよ」
「うん。明日も一緒にサッカーやるのが楽しみだよ」
それからも、僕らは放課後になるとボールを蹴り、とにかくがむしゃらに走り続けていた。時々行われる試合でも、モーゼスは期待通りの活躍をみせ、僕自身もモーゼスとの練習の甲斐あって技術力が上達していった。
「僕、モーゼス君とサッカーをやっているおかげでめっちゃ上手くなったんだ」
「そうなの。それは良かったわね」
帰ってきてお母さんに話す話題は、いつもモーゼスのことだった。
「モーゼス君、めっちゃボールを操るの上手いし、足も速いんだ。すげえんだよ!」
「じゃあ、将来は日本代表になっちゃうのかな?」
「うん。モーゼス君なら絶対になるよ」
すると、お母さんは僕のさらさらした髪を撫でて、微笑みを浮かべた。
「カズも頑張りなよ。せっかく良い友達がそばにいてくれているんだから」
その言葉は、幼い僕の心にもジワリと染みる。そうだ、僕にはモーゼス君がいるんだ。モーゼス君となら一緒に日本代表を目指せるかもしれない。
「うん! 頑張るよ!」
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