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竹馬(『文房具たちの共鳴』)



 竹馬で遊んでいる彼は、昨日私を殺した。
 
 ブランコに乗っている彼も、昨日私を殺した。
 
 ジャングルジムで遊んでいる彼も、昨日私を殺した。
 
 みんな、私を殺すために生まれてきた悪魔ちゃん。しかし、悪気はない。悪気はないから、殺すことに対して抵抗する気持ちも湧かないのだろう。彼らは無邪気な少年。遊ぶことに全力で、周りを気にしない。だから平気で人を殺せる。全く、呆れたものだ。

 

 教卓に立つ担任の先生は、一昨日私を殺した。
 
 音楽の先生だって、一昨日私を殺した。
 
 ちなみに飼育員のおじさんも、一昨日私を殺した。
 
 大人になったら成長する? いやいや、根本的に性悪なんだから。しかも脳みそが発達した分簡単に、そして潜水する魚のように隠れながら私を殺してしまう。そうでしょう? 

 彼らにだって殺人はできる。言い換えるなら、人間は誰だって人を殺す能力を持っている。しかし、自覚はない。本能は常時深い眠りについている。起きている時間はナマケモノより短い。

 

 私自身は、誰を殺せただろう?
 
 昨日はミカちゃんを殺した。一昨日は保健室にいた先生を殺した。その前は山田のおじさんを殺した。
 
 みんな、笑顔だった。殺されたことに気づいていないのかもしれない。いや、もしかすると内心はズタズタに斬られているかもしれない。ボロボロ布さえ涙するほど、痛いかもしれない。
 
 だけど、私だって殺されているんだ。みんな私を「ブス」と言って笑っているんだ。だから私もカウンター気味に、反射的に殺す。ラブアンドピース? そんなものは存在しない。

 

 竹馬で遊んでいる彼は、おそらく明日も私を殺すだろう。いいじゃん。だったら私だって彼の両親が離婚したことを大声で叫んでやる。思い切り、でかい声で。


 
 

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