めろんぱん『月に帰ろうか』
あの月、めろんぱんみたい。
とある少女の戯言にゃ。
そうだなと呟く少女の隣人。
美味しそうだねと少女。
お前、怖くないのかと隣人。
怖くないよと少女。
だって、おじさんは悪い人じゃないでしょう?
どうだろう、俺は悪い人じゃないが、
決して良人でもないぞと隣人。
良人なんていませんよ、と少女。
私の両親をご覧なさい。
父はギャンブルに溺れて死んだ。
母は違う男を作って逃げた。
おばあちゃんは私に毒を盛った。
おじいちゃんは私を殴った。
どこに良人がいるんですか?と少女。
涙ぐむ、強き少女の訴え。
俺は少女を慰めることができない。
俺は恵まれていたから。
いや、今でも恵まれているから。
だけど、恵まれているからこそ、
歪んでしまうことだってある。
なあなあ、お嬢ちゃんよ、と隣人。
俺はお前の味方でいたい。
何かできることがあったら言っておくれ。
おじさんは優しいね。と少女。
なら、一つだけお願いを聞いてちょうだい。
私の身内を私が見えない星まで運んで。
少女の目は本気だった。
何事にも恵まれて、幸せだった人生。
しかし、満ち足りることがなかった。
それでも、今俺はようやく欠を埋めようとしている。
わかった。俺に任せろ。と隣人。
ありがとう、おじさん。
にっこりと笑う少女もまた、満月のように丸い顔をしている。
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