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視覚(ショート)


 コーヒーの味なんてわからない。苦いだけ。ミルクを入れれば淡い色になるし、ガムシロップを入れれば甘くなる。それだけ。

 君は風情がないね。サムくんは僕を軽蔑する。だけどサムくんは虫の音を雑音だと言い張る。うるさいねえ、ほんとに。それがサムくんの口癖。

 うどんもそばも、麺つゆで食べればいい。とんかつにはソースをかければいいし、オムライスにはケチャップをかければ美味しい。

 君はこだわりってものがないね。サムくんは相変わらず僕を軽蔑するけど、飛行機が飛び立つ音を嫌う。ほんと、うるさいねえ。それがサムくんの口癖。

 バターとマーガリンの違いなどわからないし、そうめんとひやむぎの違いもわからない。粒あんとこしあん、正直どっちだっていい。

 君は食に対して無関心だね。サムくんはやはり僕を軽蔑するけど、夏の風によって揺れる葉の音も、蝉が鳴く声も、花火が打ち上がる音も、「うるさいねえ」としか言わない。僕はその音たちを聞けば、夏の訪れを感じるのに。

 かき氷は全部同じ味。

 そんなことないよ。いちごもメロンもブルーハワイも、みんな違うよ。そんなことより、蝉はみんな同じ鳴き方をしているね。

 いや、違うよ。ミンミンゼミもいるし、アブラゼミもいる。ひぐらしとか知らない?

 知らないね。みんな同じにしか聞こえない。

 僕は、かき氷の味が同じにしか思えないけど。

 僕は味覚音痴で、サムくんは耳がよろしくない。お互い、欠けているものがある。

 あ、入道雲だ。ふわふわしてるね。

 もこもこしてて美味しそうね。

 そうだね。入道雲を見ると、夏って感じがするよね。

 そうね。入道雲が見れなくなったら、夏もおしまいね。

 そうしたら、秋がくる。サムくんは、きっとコオロギの鳴き声も雑音にしか聞こえないだろう。僕はきっと、さつまいもと栗とかぼちゃの違いさえわからない。

 でも、真っ赤に染まった紅葉を見れば、2人は秋を感じることができる。視覚が僕らを繋ぐ。

 次は何を見ることができるだろう。

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