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夜明けまで(2)
私は男である。しかし、女でもある。ただ、トランスジェンダーではない。だから正直なところ分類はできない。それでも私の中には男がいて、女がいる。それだけは明確だった。
私には幼なじみである一人の彼女がいた。そして、こちらも幼なじみである極めて親密な男友達がいた。彼女とは恋人関係を結んでいて、世間的にはカップルだった。しかし私からすれば、彼女と男友達の差異などなく、ボーダーラインは海水に飲まれてどこかへ消え去ってしまった。
私から見て、彼女と男友達。それぞれの曖昧な関係というのは、ベッドを通じて展開されることが多かった。互いの神域に踏み込んで交わることで、線引きができない状況になっていた。
しかし、いよいよ疑問を抱いたのか、あるとき男友達の正人が私に言った。
「俺はどうしてお前と一緒に裸でベッドの上に寝ているのか、わからなくなるときがあるんだ」
その口調は本気で戸惑っている様子だった。私は黙っていた。
「俺とお前は男同士だ。恋人関係でもない。それなのに、俺たちはよくベッドの中で抱き合うし、キスをしたりする。もっと言えば、お前には彼女がいるだろう。実のところ俺にも彼女がいる。それなのに、どうして俺たちは互いの皮膚を擦り付け合うんだろう?」
正人の疑問はもっともだった。だけど、私も正人も正解にたどり着くことはなかった。
「成り行きかもしれないね」
私は正人の隆起した腕を枕にして、彼の人差し指を咥えてみた。ただただしょっぱい。それは海水に似た味だった。
「成り行きか。本当はそれ自体が変なことなんだろうけどさ」
「男同士だから?」
「それもある。あとは、俺たちが友人だから」
私は首を傾げる。
「友人同士で寝ることは、いけないことなの?」
彼は混乱を隠せずまま答える。
「いけないとはいわないさ。うん、そういうのも悪くない。でも、ミステリアスだ」
私はしっかりと正人のあらわになった胸を見た。そして明確に区画された胸板に軽くキスをした。瞬間、たゆんでいる沙耶香の膨らんだ胸を思い出した。
「俺たちは、いけない関係なんだろうな」
「いけない? それは世間的に?」
「世間的にも、倫理的にも」
正人の目は、罪人の目と同じだった。光沢がなく、潤いもない。ただただ視力だけが機能している感情のない目をしていた。
「もう、会うのはやめたほうがいい。お互いのためだ」
正人が感情を殺しているのは明白だった。だけど、反論できるほど私は正常ではなかった。
「会えなくなったら」
私はそこまで言って、言葉を止めた。
「それぞれの幸せを願う。それ、すなわち正しい人の在り方だ」
そして正人は最後に私の薄い唇を奪った。たった一回、しかし彼の全てが込められた一回だった。
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