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君が映る 『ららら』



物語の始まりは上野公園
僕はカメラを回していた
この耳が大好きな噴水が
音を立てて飛沫を上げる

バニラ味のソフトクリーム片手に
君はずっと噴水を眺めていた
僕の隣にいる君は浮かない顔をしていた
真っ直ぐの人生が屈折しているようだった

わたし 自分が分からなくなるときがある
僕も そんなことしょっちゅうだよ
ねえ わたしを探しにいきたいの 
いいよ 僕も散歩がしたかったんだ 


浅草 日本の古き良き文化残る街
由緒ある遊園地 花やしきが構えている
僕は鯛焼きを食べて 君は煎餅をかじる
しまいにはもんじゃ焼きまで胃に入れて

浅草寺でお参りをして 花やしきで遊んで
お土産に雷おこしとまんじゅう買ってみて
遊戯と食をひたすら堪能し続ける
だけど君は君自身を見つけていない

もっと仲を深めようと人力車に乗れば
威勢の良い兄ちゃんが僕に言うのだ
あんちゃん、べっぴんさん連れてますねと
僕らは恥ずかしくなって すぐに降りた


僕らの旅路は続き お次は渋谷に到着
交差点でカメラを掲げる外国人たち
スマートフォンに夢中な若者たち
スパイダーマンの格好をする怪しげな男

あたり一帯がビル ビル そしてビル
常に最新版にアップデートされた街
お洒落な女性が高いヒールを履いて歩く
サラダボウルで混ぜられたような異文化たち

僕はクレープ屋の姉ちゃんにドキドキしながら
舌触りの良い薄生地を口にして
生クリームのダルさを体内に入れる
バナナはしっとりと チョコレートは甘い

君はショーケースに飾られたマネキンを見ている
そして自分とは違うと悲しげに呟いてみる
違う それは当たり前だろう 僕は言った
そうだよね 君は薄ら笑いをする

ニッチなレコード屋さんを覗いて慄いて
出かけた先でも有名チェーン店で飯を食う
安いハンバーガーをかじる君は曇天を憂いて
僕は塩気のないポテトを憂いて

やっぱりこの街は好きじゃないな 君は言った
そうだね 僕らには合わないかもね
ねえ 他にも回ってみていいかな?
もちろんだよ 僕はいつまでも付き添うよ


池袋 新宿 六本木 五反田 もしくは中野 
僕らは都心をグルグルと回る まるで山手線みたいに
だけど 君に合う場所はなかった
戻ろうか 僕らは元の場所へ向かった


最終地は やはり上野の公園になった
夕焼けが広がる空の下 さざめく噴水の音が響く
どこにもいなかったな 君は嘆いて空を見た
ここにいるんじゃない? 僕はカメラを見せる

君はずっと僕の隣にいる 
それだけで僕は幸せだよ
君は嬉しそうに笑った
そうだよね ここにいるよね

カメラに映る君を見て 僕らは確信した
環境じゃない 誰と一緒にいるか それが大事
結局『この場所』が一番だね 君は笑っていた
笑顔を取り戻した君を見て 僕も笑った


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