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自分殺人事件(『回顧する蚕』)

出来損ないの僕は死んだ
世の中に認められることなく 
呆気なく死んだ
そこに転がった死体は踏み潰され
腐食してぺちゃんこになって 
呆気なく消えた

夢みたいな世界を生きたいと願った
愚かな少年は言った
「努力すれば夢が叶う」と
愛されることが当たり前だと思う
天真爛漫な少女は言った
「希望を抱いて生きるのが大切」と

面白いくらいに戯言を吐く芸能人の
家は裕福でいわば上級国民
笑っちまうよ そんな立場で
庶民気取って努力論語るんだから

殺されるくらいの価値がある人間
殺されるくらいの夢がある人間
僕はそれになりたかったよ
だけど社会はそれを望まないんだ
だからいっそこの哀れな死体を
輝く光に照らされるこの死体を
愛してくれる人を募集しているんです
その方が今よりもずっとマシですから

挫折と栄光を語るスポーツマン
夢を追うと虚言を吐く政治家
何でもかんでも精神論で例える実業家
みんなみんなこの世では成功者
「純粋」に生きることが正解で
「不純」な人間は徹底的に排除されて
「潤滑油」になった人間が評価されて
「社会不適合者」は排除される

なんだっていいじゃないか
生きることに正解はないはずなのに
狂おしいくらいにこの世界は支配されている
驚くくらいに同調主義に浸っている
コミュニケーションが取れない奴はクズで
生きる価値すらないってハンコ押されて
挙げ句の果てに迷った僕の心は
今まさに死に時を迎えている 迎えている

最高じゃないか 世のための死を
喜んで歌うよ 死者の大行進を
冗談じゃない 僕の死体は
この世でずっと生き続けているんだから

さらば僕の死体よ 
こんにちは 素晴らしき世界よ
僕の魂は浮かび上がって付着するんだ
この世界に抗うために 
この世界を愛するために


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