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雨蛙と少年『水無月の白昼夢』



雨が降っている。人間が嫌いであろう、雨。
しかし、少年は舞い上がっていた。
雨だ、雨だ。彼は喜びの笑みを浮かべていた。
気になった雨蛙は、彼に聞いた。
どうしたんだい? 人間様が雨を好むなんて。
もしかして、君は農家の息子かい?
しかし、少年は首を横に振った。
僕は農家の息子ではないよ。
僕のお父さんはシステムエンジニアって仕事。
お母さんはスーパーでレジ打ちしてる。
では、どうして雨が降っていることが嬉しいんだい?
普通、子供は雨が降ってしまうと外で遊べなくて、酷く悲しむだろうに。
すると、少年はニコニコとしながら雨蛙に言った。
僕は外で遊ぶことが嫌いなんだ。
だって、みんな足が速くて、だけど僕だけ遅いから。
だから、外で遊べなくなった方がいいんだ。
土砂降りが降ってくれたら、みんな大人しく教室にいるから。
雨蛙は驚いた。ゲコ、ゲコ……。
そうかい。それは特殊な事情だけど、良いと思う。雨蛙は言った。
少年はありがとうと言って、もっと雨が降ってほしいと願った。
その方が、少年は自己を保つことができると信じているから。

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