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紫色の女性 『彩』


美しさとしなやかさと柔らかさ

多分 それが彼女の性質

ステージ上で踊る美の結晶

人はそれをパープルウーマンと呼ぶ


化粧なんて野暮なものはいらない

元々整ったパーツだけで勝負する

故に自然体で美麗さを見せつける

すぐに誰もが虜になってしまう美貌


スタイルだってスマートを極めていて

さらさら揺れる髪が華奢な肩を撫でる

そこには優しさすら感じさせてしまう

麗しい唇はもはや伝説の果実だろう


人々は彼女を見ると紫を欲してしまう

辺りの世界に紫を探し それを消費する

まるで心に種を植え付けられたように

紫を愛して 真髄まで彼女を愛してしまう


パープルウーマンは今日も笑顔で踊る

人々はそれに熱狂し 全てを捧げていく

その空間が一種の共同体を生み出していき

幸を分配する異空間と化してゆく


誰だってパープルウーマンを好きになる

みんなが彼女に憧れて 整形する人すら現れる

社会だって彼女を見過ごしたりはしない

大金を積んで彼女を広告塔に仕立て上げる


パープルウーマンはあざとさの毒を吐き出すから

みんなは余計にハートを鷲掴みにされてしまう

生活に彼女との愛が刻まれてしまうから

やがて結婚する人間もいなくなってしまう


政治 経済 外交 環境 などなど

あらゆる問題は全て彼女が引き受けるようになる

彼女が全て 彼女に逆らうことはできまい

パープルウーマンは笑顔で権力を掌握する


伝染病みたいに規模は膨れ上がっていき

人気は次第にグローバル化していく

誰もがパープルウーマンを手に入れたいと願い

パープルウーマンを神とする宗教まで誕生する


ただ パープルウーマンには好きな人がいた

それはずっと幼なじみだった 僕

彼女は僕のことが好きで 僕は彼女が好き

だけど 想いを実らせることはできない


世界にうんざりした僕は一つの提案をした

僕らが愛する場所へと向かおう 二人だけの世界へ

彼女は泣きながら僕にすがりついて嘆く

もう疲れたよ 一緒に旅に出ましょうと


深夜二時の東京湾 僕らは手を繋いで

真夜中の深海へとダイブする

ここが二人だけの世界 いずれ見えるのはヘブン

やっと二人きりになれた 僕は笑う


そうだね わたしも一緒になれて幸せ 君も笑う

現世にいる間に一つだけ 僕は彼女を抱きしめる

そして 最期に唇を交わす

そのまま永遠になれるように


パープルウーマンなんて名前じゃなくて

きちんと君の名前を呼んで


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