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蒼いユニフォームを纏って 6



「真島。それは『差別』といって、絶対に言っちゃいけない言葉なんだぞ」

 諭すように、それでもはっきりとした声で、僕のことを引き剥がした松岡先生が言った。

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 真島は僕に締められていたからか、疲れ切った表情でずっと俯いている。目には涙を浮かべていて、悔悟の情をあらわにしていた。

「でも、柏木。カッとなっちゃうのは分かるけど、暴力はダメだぞ。真島君が死んじゃったら責任取れないだろう?」

「ごめんなさい」

 僕も真島君に頭を下げる。

「モーゼス君。私たちはモーゼス君の味方だからね」

 吉野先生は心を痛めたのか、ハンカチで目元を拭っていた。

「ありがとう、ございます」

 その後もしばらく話し合いをした後、僕らは解散してそれぞれの家に帰った。雨はすっかり上がっていて、晴れ間も見えていた。

「カズ君。さっきはありがとうね」

「うん」

 僕は話す元気もなかった。あまりにもショックな出来事に、今も感情がグルグルと渦巻いて怒りを抑え切れずにいる。

「嬉しかったよ。カズ君は僕のために必死に戦ってくれた。やっぱり、ナイスガイだよ」

 だけど、モーゼスの優しい言葉が僕の憤りを鎮静化させる。小鳥のさえずりのように穏やかで、河のせせらぎみたいに暴れる気持ちをスローダウンさせてくれる。

「ねえ、一つ聞いてもいいかな?」

 モーゼスは帰路を辿る足を止める。

「どうしたの?」

「僕はやっぱり、日本人じゃないのかな?」

 モーゼスは自分の腕を見て、寂しそうに言った。その姿が僕には耐えられなくて、また感情的になってしまう。

「モーゼス君は日本人だよ! 誰がなんて言おうと、日本人だから。だから……」

 そんな悲しい言葉を言わないで。それが僕の本音だった。

「そうか。カズ君に言われたら自信がつくよ。僕、自分だけ肌の色も違くて、正直嫌だなって思っていたんだ。僕だけ仲間外れな気がして、日本に住んでいるのに日本語を話しているのに、どこか違うからさ」

 でも。モーゼスは前置きをして、笑顔になる。 

「カズ君が認めてくれるなら、僕は日本人なんだと思う。ありがとう。気持ちが楽になったよ」

 そしてモーゼスは僕の肩をポンポンと叩き、「帰ろう」と言って再び歩みを進めた。


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