浅草にて、たい焼きを食べる男 『日向あり故に我あり』
霜月の朝 わたしは旅に出る
それほど大それたものじゃないが
ポケットに小銭だけ入れて
気持ちを整える旅へと出かける
退屈な世界 彩りのない東京
閑散とした浅草をわたしは逍遥する
煙草すら吸ったことがない小心者だが
少しくらいは大人になっただろうか
永遠と続くわけではない命
無駄に過ごすのは勘弁だった
だからわたしは老舗の軒先で
熱々のたい焼きを買って齧った
好きな人間がいたわけではない
だけど日々移りゆく心を抑えきれず
独り悶々とする時間が続いていた
わたしは誰? と問