マガジンのカバー画像

さんぶりんぐ(Logos Sampling)

6
他者の散文から詩を読み出しテクストに固定する無謀な試み、さんぶりんぐ(Logos Sampling)試作集。
運営しているクリエイター

記事一覧

[Logos Sampling Series] Chapter6.山川均君についての話

明治三三、四年のころ、わたしは万朝報の編集局で初めて山川均君の名に接した。

日刊平民新聞第一号に「前半身に対す、山川生」と題した一文が載っている。

日刊平民の編集局における山川君は寡言沈黙、ただこつこつと働いていた。

日刊平民がつぶれてから、山川君は守田君と一緒に淀橋の柏木に住んでいた。

赤旗事件の前に、屋上演説事件というのがあって、山川君、大杉君、わたし、その外数名が一、二カ月禁固された

もっとみる

[Logos Sampling Series] Chapter5.日本の幸福

近ごろ、僕はその夢を捨てたくなった

金が無いからもありますよ、けど金が無くたって夢は持って居られまさあね

だから金が無いという理由じゃないんだ

ミキサーが、やたらに方々で、音を立てているが、これとても、果物の味は、ミキサーの廻転と共に、ふっ飛んでしまっている

コテコテコネ廻してあっちゃあ、どうもネ

何を好んで、妙な我慢をしているのかと、全く僕には判らなかった

(古川緑波『ロッパ食談』完

もっとみる

[Logos Sampling Series] Chapter4.「シュレーディンガーの翼のあるライオン」

自然と宇宙は「人間を逃れ去る」だろう

概念と思考を用いて物質的世界を超越する可能性も消え失せる

現代科学が扱っている宇宙

作業上のリアリティに技術的に翻訳できる原理そのもの

まったく表現することのできないもの

未来人は、この与えられたままの人間存在にたいする反抗に取りつかれ

知識と思考とが、真実、永遠に分離してしまうなら

技術的知識の救いがたい奴隷となるだろう

言論がもはや意味をも

もっとみる

[Logos Sampling Series] Chapter3.高等農林学校設置に関する意見書

大正五年十二月十日。

右、府県制第四十四條により意見書提出候なり。

本県内に高等農林学校を設置せられんことを建議す。

これが施設に関し協賛の至誠を捧ぐるに躊躇せざる所なり。

願わくば本会の徴衷をくみ県民多年の要望を達せられんことを。

実業の興隆を図り国力の充実を期するより先なるはなし、

農林の業は我が国における最重要の産業にして住民その職業の本意をこれに置かざるはなし。

陣地の開発い

もっとみる

[Logos Sampling Series] Chapter1."ある御仁曰く"

ある御仁いわく。

「よく出来た嘘をつくものだ」

現実を直視せよ。

「よく出来た嘘をつくものだ」

国家の、社会の、誰の目にもはっきりした正義がある。

「よく出来た嘘をつくものだ」

個人的なもの、主観的なもの、曖昧なもの。

敢えて言えば何やら全く得体の知れないもの。

そんなものは除外すれば良い。

「よく出来た嘘をつくものだ」

良心の朦朧性などを信じているのは現実逃避である。

「よ

もっとみる

[Logos Sampling Series] Chapter2."十八分の一の人生"

都市と農村の分業がある。

地方と地方との間にも分業がある。

国と国との間にも分業がある。

分業は生産力を増加したが、分業は人生を留針の十八分の一に追い込んだ。

一人で働いては一日に、三本か五本しか造ることの出来ぬ留針を、十八の部門に分けて製造すれば、一日数千本の割合で生産することが出来る。

針の頭を附ける者は、終生、針の頭を天地としなければならぬ。

針の先を尖らす者は、此広い、美くしい

もっとみる