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音楽関連雑記

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オペラ《王様の会議 Le Congrès des rois》(1794)

オペラ《王様の会議 Le Congrès des rois》(1794)

 1794年、イギリス首相ウィリアム・ピットはジャコバン派の台頭したフランスの状況について語る中で、こう述べた。

「(パリでは今)ローマ教皇の結婚など、あらゆる茶番が上演されている」

 理性崇拝を掲げ、キリスト教教会の破壊に及んだ国民公会は、国王ルイ16世を断頭台で処刑したのみならず、公共のモラルや社会的常識までをも覆した。
 こうした中、劇作家や音楽家は時世の要求する作品を猛スピードで書き上

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グリエール《ザポロージャ・コサック》Op. 64(1921)とコサックについて

グリエール《ザポロージャ・コサック》Op. 64(1921)とコサックについて

レインゴルト・グリエール(1875-1956)はキエフ出身。モスクワ音楽院でタネーエフ、 アレンスキーらに師事し、作曲を学んだ。同時期にスクリヤービンやラフマニノフがモスクワ 音楽院に在学していた。音楽院卒業後、同校で教鞭をとる傍ら交響曲や室内楽作品の作曲を行った。ロシア革命後もモスクワに居住し作曲活動、教育活動に専念し1956年に他界した。
初期の作曲活動においてグリエールは後期ロマン主義時代

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「この世に永遠の敵は存在しない」:小ピットの言葉とオペレッタ《コシチューシコ》

「この世に永遠の敵は存在しない」:小ピットの言葉とオペレッタ《コシチューシコ》

 1786年にイギリスとフランスが長年の敵対関係を解消して通商条約を締結したとき、当時のイギリス首相ウィリアム・ピットは「この世に永遠の敵は存在しない」と議会で述べました[1]。イギリスとフランスは非常に長い間敵対関係にあり、両国の間に灯る憎悪の炎は消すことができないと思われていました。ところが、ピット首相は通商条約によってこの関係を改善させ、共にに財政危機を乗り越えることを目指し、議会に承認を求

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マルティン・ルターの讃美歌《神はわがやぐら》について

マルティン・ルターの讃美歌《神はわがやぐら》について

讃美歌《神はわがやぐら Ein feste Burg ist unser Gott》は16世紀のドイツの聖職者マルティン・ルターによって作曲された。キリスト教徒にとって馴染み深いこの讃美歌は、果たしてどのような経緯を経て作曲されたのだろうか。ここではルターの宗教改革時の取り組みの一つである讃美歌の作曲と、後世に与えた影響について述べたい。

1.宗教改革の発端

1517年にルターによって行われ

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