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財務諸表がおおむね現在の格好になったのはいつか、という話(2)~会計ビッグバン以前のキャッシュフロー計算

前回は「財務諸表がおおむね現在の格好になったのはいつか、という話」と題して主に昭和40年代の有価証券報告書に見られる損益計算書などの変遷について書きましたけども、多分、会計クラスタ各位は「現在の格好」といった時には実際には1999年頃の会計ビッグバン以降だよなというツッコミをしたかったのではないかと思います。

ちょっと言い訳をすると、私が財務分析みたいな仕事を始めたのは会計ビッグバン以前の話で、会計ビッグバン(連結決算の主流化、税効果会計の導入、キャッシュフロー計算書の導入、退職給付会計、時価会計、等々)以前から、株価評価にDDMを用いたりしていた関係上、連結でキャッシュフロー計算書を自前で計算する、みたいなことをやっていて、かつ保有株式や土地の時価評価をしないと株価評価できないのは当然だよね、みたいな感覚ではあったので、会計ビッグバンの時には退職給付会計と税効果会計だけ勉強すれば後は仕事は楽になるだけだなという程度の雑な感覚でしたし、今でもまあ会計ビッグバンでの変化なんて常識ではとかついつい思いがちですけど、そうですね、会計ビッグバン当時を経験している方となるともう結構なシニアレベルでしょうし、主に若い方々のためにちゃんと言及しておかないと不誠実だなと思い直した次第です。

キャッシュフロー計算書の義務化は1999年度

それで、キャッシュフロー計算書は2000年3月期から導入されているんですけど(財務諸表等規則でいうと平成11年大蔵省令第21号の第18次改正)、なんとまあ今から思い返すとネットバブルの頃までキャッシュフロー計算書なかったんだ、的な驚きがあります。当時割と普通に過ごしてたけどネットもまだブロードバンドもなかった頃だし紛うことなく前世紀という感じがいたしますね・・・
なお、開示を開始する際に前年度分も開示している会社がそこそこあったので、データサービス等では99年3月期分から取れる場合が多いと思います。

それ以前は「資金収支の状況」

では資金関係の開示が全く無かったかというとそうではなく、それ以前は有価証券報告書には昭和62年度までは「資金繰状況」、昭和63年度以降は「資金収支の状況」という項目があります。実際に見られるものとしては以下のようなもので、非現金支出や運転資本や経過勘定の扱いがかなり微妙なのが見て取れるかと思います。PL上の記載金額とのギャップ拾えば非現金項目は拾えなくもないですが、正直かなり面倒くさかったことなど覚えています。
が、注目すべきは「翌期中間」の計画が記載されていることで、決算短信がこうしてネットで取れるようになる前は決算短信が手に入らない投資家はガイダンスとしてここを見ていたことが推察されるところです。

出所:新潟鐵工所有価証券報告書より筆者作成

月次の資金計画が記載されていた

この資金繰の状況ですが、実際には附属明細表の最後に「最近の資金繰り実績」「今後の資金計画」として記載されており、昭和40年代だと半期・四半期ベースで記載されていることが多いものの、昭和20-30年代だと月次の資金計画が記載されている会社があります。以下は東京通信工業(ソニー)の昭和32年4月期の有価証券報告書ですが、前後6ヶ月の月次の資金繰りが記載されています。製造原価明細と並び、現在よりも開示が良いところでしょう。

出所:東京通信工業(ソニー)昭和32年4月期(第22期)有価証券報告書

全くの当て推量ですが、当時の日本の経済状況やそれ以前の会計制度などを思うに、当時は国全体として資金不足/資金ショートであったので資金繰りは今から思うより重要性が高かった、昭和15年前後の話ですが陸海軍とも軍需品の原価計算について詳細な計算と四半期での報告を求めていたとかで国全体でそういう開示の対する姿勢があったのではないかと想像したりしています。
# 陸海軍の原価計算については、詳細は次回以降にしますが、戦後に企業会計原則ができるまで、それ以前は昭和9年の商工省の財務諸表準則(強制性はなし)と並んで陸海軍の原価計算基準の制定というのがあったという話です

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