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♯14 派遣社員の天敵!KBBへの逆襲

数年間、フルタイムで勤務したとある小さな派遣先企業でのこと。

長年勤務しているというベテランパートのイルマさん(仮名)という人がいた。
御歳は70近く、自分の親と同世代である。
パソコンも使い、日々業務をこなす。特にコピー機の使い方には長けている。
社内の備品の置き場などにもうるさい。
平均年齢が若い会社のため、大半の社員よりも社歴が長いのである。

このイルマさん、かなりのクセ者で、女性上司達にはフレンドリーに接し、若い社員には孫の様に接するのだが、
派遣社員やパート、アルバイトなど非正規社員に対しては決まって、関係ない部署であっても理不尽な意地悪をしてくるのである。

自らは決して出ずに、電話応対、来客対応を強い口調で「早く出なさい」と促してきたり、通路で作業していると「邪魔!」と言ってわざとぶつかってきたり…
特にコピー機を使う時、自分が使いたい時に他の派遣社員やパートが使っていると、「急いでるんだから!」と文句を言ってくる。
文句を言うぐらいならいいのだが、ひどい時は印刷の途中でも勝手に止めてしまい、自分の印刷を始めてしまうのである。

一度、社内で社員さんが印刷した個人情報の書類が紛失したと大騒ぎになったことがあった。
皆で社内を探すがみつからない。
そこで、勘の利くパートさんが社員さんにこっそり耳打ちする。
シュレッダーの中を開けると、その書類が粉々になってみつかったのである。
恐らく、イルマさんが派遣社員かパートが印刷したものだと思って勝手にシュレッダーにかけたのであろう。
社員さんは激怒するが、イルマさんがシュレッダーにかけている確たる証拠がないので
「人の書類を勝手にシュレッダーにかけるなんて許されないことですよ!!」
と、皆の前で誰にともなく注意するということだけに留まった。
イルマさんは他人事のように涼しい顔で気にもとめていない風であった。

私も一度、大量の個人情報を印刷中に止められていたことがあった。
あまりに頭にきて、「ちょっと!文句言ってきますわ!!」とそのまま殴り込みにいく勢いで向かおうとしたら、
私の関西弁の勢いに恐怖を感じた女性上司に「本当にごめんなさい!お願いだからやめて!」と必死に止められた。

その上司曰く
・イルマさんは社長夫婦と懇意にしていることから、この会社で長年働いていること。
・実はイルマさんが一日かけてやっている仕事は、他の人がやると20分で終わるので、社員は総意で辞めさせたいと言っているのだが社長が首を縦に振らないこと。
・意地悪をしていることもわかっているが、イルマさんよりも若い女性上司ばかりで注意しづらいこと。
要は社内でもアンタッチャブルな存在であるということなのだ。

「だからいつも女性社員同士で社内チャットとかでKBB(クソババア)ってあだ名で呼んで、文句を言いまくって発散してるんですよ」
と、何の解決にもならないことを教えられ、諦めて今回は我慢してくれと懇願されたのである。
この上司に頼まれた急ぎの仕事を妨害されているにも関わらずである。

そして、上司から提案された解決策は「大事な印刷はイルマさんの不在時にするようにしましょう」だった。
本末転倒ではないだろうか…

営業がもらって来た差し入れのお菓子は我先にと取りに行き、
気に入った若い社員や手下の様にしている派遣社員とお昼に行くために、その部署が仕事の途中であっても、無理矢理に正午になる10分前に女性上司の話を中断させて、連れて行ってしまう…
KBBもとい、イルマさんがお昼に行くと、コピー機には列ができるのも日常だった。

機嫌がいい時には、誰彼関係なく、生まれて間もないお孫さんの写真や動画を見せてきては
「可愛いでしょー」
と、始まる。
赤ちゃんに罪はないので、話を合わせるが、本当に気分次第で自由なふるまいを見せていた。

ある時。
いつも嫌がらせを受けているパートさんから
「イルマさんがネット見てるところって、みたことある?」
と、聞かれた。

この会社では業務中の一切のネット閲覧を禁止されていたのだが、
言われてみれば、後ろを通った時にイルマさんはたまにYouTubeを見ていたのを見たことがあった。
何か仕事に必要なことなのかな?ぐらいにしか思わなかったのだが、どうもネットサーフィン常習犯なのだそうだ。
「この前、遂に通販サイトで炊飯器を買おうとしてたから、これはないな…と思って」
と、上司に報告するための情報を周りから集めていたのだった。
(このパートさんの観察眼にも恐れ入るのだが…)

そして、数日後。
現行犯で注意するのには引け目を感じた社員達が、イルマさんが帰宅してからパソコンを開き、ネットの検索ログをチェックし印刷。
次の日に証拠を突きつけながら、男性上司からネット閲覧禁止だと、丁寧に注意させたのだそうだ。

その日証拠として出されていたログには
「ベビー服 代官山」
「ベビー用品 可愛い」
など、お孫さんのアイテムを探した形跡がわんさか出て来たのだそうだ。

さすがにその日ばかりは、イルマさんは心なしかシュンとして見えた。

女性上司達の「普段は愛想良く接して、裏で陰口を言う」という謎の社内ルールも、
長年で構築された社内調和の知恵なのだろうが、
余計にイルマさんをつけあがらせている要因なのだとわかりながらも、改善できないところは、この職場の残念なところだった。

もし、自分の親が職場で自分より立場の弱い者に嫌がらせを続けながら、「KBB」と陰口を叩かれながらも、のうのうと長年働いていると思うと…
私は何ともやるせない気持ちになってしまう。

イルマさんの様ないわゆる「アンタッチャブルな存在」はどの職場にも色んな形で存在する。
これが上司だったりした時には本当に最悪である。
こういう存在を社内でどう扱うかは、職場環境を良くするために本当に頭を悩ます深刻な問題である。

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