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父の秘密

「猫を見たら追い払え」
幼い頃からの我が家のルールだった。

野良猫に「かわいい」なんて言おうもんなら、すぐにお叱りを受けた。

なぜ、それほどまでに、猫を毛嫌いするのか。それは、猫が家に近づくこと事態が、我が家の死活問題になるからだ。

実家の職業は『養豚業』。豚を育てている。
親いわく、猫が保持している菌が豚に悪い影響を与えるらしい。
だから、どんなにかわいかろうが、猫は我が家にとっては害虫でしかなかった。

40年以上、その暗黙のしきたりにしばられ、結婚し、私は自分の世帯を持った。

半年前、保護猫を我が家にと相談があった。私にとってその猫は特別な運命を感じる猫で、どうしても受け入れたかった。
無理を承知で実家に打診した。
「猫飼っていい?」
返事はあっけなく
「あなたの家ならいいよ」
拍子抜けした。

我が家の薔薇色の猫ライフが始まった。

猫に会いに父が遊びに来た。
満面の笑みで猫に接する父。

「お父さんって、猫好きだったの?」
うれしそうに頷いて話してくれた
「お前たちが猫を飼いたいって言うとかわいそうだから、絶対に言えなかった。家ではどうしても飼えないからな」

父のその言葉を聞いたのは、亡くなる2ヶ月前だった。

家族のための優しい秘密だった。

大好きな猫を抱くこともなく、先日この世を去った父。
私は棺に猫のヒゲを入れた。
あちらの世界で、大好きな猫と暮らせてたらいいと願っている。

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