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平成Webサイト名盤カタログを作ろう!(仮):連載第1回:『ecotonoha』


はじめに
インターネットの黎明期、Flashサイトはインタラクティブな体験ができるWebサイトとして一時代を築きました。そのアーカイブを紐解き、当時の革新的なクリエイティブを再発見する連載企画をお届けします。
業界歴約20年のMASKMAN代表ナカニシと、業界2年目デザイナーのムカイダが、Flashサイトの黄金時代にタイムスリップしながらその魅力と革新性を再発見し、未来のクリエイティブのヒントを見つけ出していきます。

はじまり:
「Webサイト名盤100選」みたいなのがあってもいいんじゃない?

発端は音楽が好きという共通点を持つナカニシ、ムカイダの「音楽って'60年代や'70年代、果てはクラシックみたいに遡って評価されてたりするけど、Webサイト版のそういうものって無いよね?」という会話から。
時代を問わず評価される、ロック名盤100選のWebサイト版があっていいんじゃない?いつかそんなアーカイブを作ることを目指してやってみよう!

…と、いうことで、始まったこの企画。
記念すべき第一回目は、中村勇吾さん制作のWebサイト「ecotonoha(エコトノハ)」を取り上げます。
年齢も業界に入った時代も大きく違う、二人の会話をお楽しみください。



ムカイダ:今日はFlash時代のクリエイティブなWebサイトについて、色々とお話を聞いていきたいと思います。Flashといえば、私にとっては昔流行った面白Flash動画のイメージが強いのですが、Webサイトでの事例はあまり知りません。Flashをきっかけに、当時の面白いクリエイティブの事例などを振り返っていけたらと思います。

ナカニシ:Flashサイトの全盛期は2003年頃からiPhone登場の2007〜8年頃までで、時代の空気と相まって面白いWebサイトがたくさんあった。きっと今でも通用するアイディアはたくさんあると思うので、振り返ってみよう。



言葉の葉が広がるサイト、「ecotonoha」

ムカイダ:まずは、「ecotonohaの概要について。

ecotonohaは2003年にNECの環境保全活動PRで展開されていたWebサイトです。参加者がサイト上にメッセージを書き込むと、サイト上の「木」から伸びた枝に、入力したメッセージの言葉が文字通り「葉」となって広がります。参加メッセージが100件を超えると、木の絵が一本出来上がり、それに連動して実際の植林事業の植樹数が増やされる、という仕組みになっています。世界各国17万人からアクセスがあり、メッセージは全部で6万件を超え、これによって、オーストラリアのカンガルー島の植林事業で609本の植樹が追加されたそうです。

このWebサイトは、多方面で活躍されているクリエイターの中村勇吾さんによって制作されました。

ナカニシ:ecotonohaというネーミングから非常に巧いよね。
言葉、つまり言の葉(ことのは)が「エコとの葉」のネーミングとかかっている。そしてメッセージ=言の葉が樹木に茂り、1本の樹が画面上で出来あがり、やがて樹が増えていく。画面上に樹が増えるだけでなく、樹が画面で1本増えるたびにリアルな世界植樹という形でフィードバックされる。
まさしく「ecotonoha」。
コンテンツ一連の流れがパーフェクトだと思う。

メッセージを入力すると、それが葉になり、樹が生まれる
メッセージ=言の葉が集まり、樹のビジュアルが完成する


ユーザが入力した単語によって生まれる樹は1本として同じではない。そのインタラクティブな体験の素晴らしさ。
文字の重なりや木の枝が伸びていく広がりもランダムで、重なりあう文字が織りなすビジュアルも非常に美しく素晴らしい。最終的に植樹を行うというリアルへのフィードバックも、施策内容にハマっていて気持ちのいいWebサイトだよね。俺にとってのエバーグリーンでもあるし、Web業界に長くいる方々にとってもそうなんじゃないかな。
もしかすると今だに誰も「ecotonohaを超えられていないかも」って思うくらい素晴らしいコンテンツだと思う。


中村勇吾さんについて

ムカイダ:このサイトを制作された中村勇吾さんは当時から有名だったんでしょうか?

ナカニシ:中村勇吾さんは以前ビジネス・アーキテクツに在籍されていて、クリエイティブのレベルがとても高いだけでなく、ギークだけど美しい機能美の極みとも言えるWebサイトを次々に制作されていたんだ。

当時は情報を伝えるためのWebサイトが多かった中で、中村勇吾さんはクリエイティブなアート性の高いものを多数制作されていた。その後メディアアートの領域へ行かれてCorneliusのライブでVJをされていたり、岡村靖幸のライブ映像を担当されていたりと幅広く活躍されている。
ライゾマティクスのパフォーマンスを初めて見たときのような「今まで見たことがない」という衝撃的な感覚をecotonohaや中村勇吾さんに感じたんだよね。

当時の時代背景

ムカイダ:ecotonohaは2003年のサイトですが、当時の時代背景はどうでしょう。

ナカニシ:当時Youtubeやニコニコ動画のような動画配信サービスはまだ無くて(※注:Youtubeは2005年、ニコニコ動画は2006年にサービス開始)Flashで作ったアニメを2ちゃんねるとか面白フラッシュまとめみたいなサイトにアップして皆が見て喜んでいた、という時代だったのね。
ecotonohaのようなインタラクティブなWebサイトは少なかったし、初めて見たときは「凄く面白い何か」という印象を受けたけど、「凄いWebサイト」だとは捉えなかった。

ムカイダ:確かにWebサイトというよりは、動画のように見えるかもしれませんね。

ナカニシ:そう、Webサイトというよりはむしろ「インタラクティブな映像」という印象を受けた。当時ユーザーは制作されたアニメーションを映像として受動的に見るものがメインで、見ているユーザーがインタラクティブにアニメーションへ影響を及ぼせるものは無かったんだ。
ところがFlashはアニメーションの映像に自分が影響を与えることができたし、ecotonohaはその元祖だったように思える。
ローディング時間も短くて全部プログラミングで組んでいるから処理も早い。当時のPCや回線でも枝がサーーっと軽やかに広がっていて、ストレスのない体験が実現できたのも本当にすごいなと思う。


商品画像でタイポグラフィーが生成される「Amaztype」

ムカイダ:企業の環境保全活動のためにクリエイティブなWebサイトを作るというのも新しかったんでしょうか?

ナカニシ:当時そういったクリエイティブでインタラクティブ性の高いWebサイトの制作にチャレンジしてた人たちが同時多発的に出てきてた時期で、俺が1-10 design(※現:1-10)に勤めていた頃にもFlashを使ったコンテンツがたくさんあった。
今でもすごく面白いと思えるアイディアのものがたくさんあるんだよね。

これは、同じく中村勇吾さんの作品の「Amaztype」

例えば「BECK」と打ち込んだらAmazonのBECK関連の商品サムネがモザイクタイルのように「B」「E」「C」「K」の形に集合してその場でタイポグラフィーを形作り、集まったサムネが全部Amazonの商品リンクになってるんだよね。

商品のサムネイルが集まりタイポグラフィーを形成する

タイポグラフィーが出来上がっていく様子も美しいし、出来上がった後に一個一個のサムネが商品リンクとなることで次のアクション=購買が促されている。新しいサジェスチョンという感じで、当時そんなWebサイトはなかったから驚いたのを覚えている。


ナカニシ:これらのクリエイティブに共通することとして、一見堅い内容を柔らかく見せることにすごく成功してるなと思った。
クリエイティブでスマートな入り口を作ってくれていて、最後に「実はこれで木を植えられるんです」とか「なるほど!」と気持ちよく思わせてくれるオチがあるのが本当に素晴らしいと思う。



Flashの時代にあって、今の時代にないもの

ムカイダ:ナカニシさん視点で当時のFlashサイトにあって、最近のサイトにないと感じるものは何かありますか?

ナカニシ:ある・ないという話じゃないかもしれないけど、今のWebサイトは「Webサイトを見てWebサイトを作っている」と感じることは多いかな。。

20年前はそもそも参考のまとめサイトやデザインの王道パターンなどもなかったからUIもみんなバラバラで、サイトごとにかなり色が出ていたと思う。俺自身もサイトを作る際には映像作品、雑誌、ゲームなどWebサイト以外のものを参考にしてた。
逆に現代のWebサイトは、Webサイトを参考にしてWebサイトを作っていると強く感じるかな。皆リファレンスサイトを参考にしてたりするじゃん。参照・参考にするWebサイトが今はすごくたくさんあるからね。
平均的なクオリティが上がったという良い面がある一方で、パッと見同じようなWebサイトが必然的に増えたとも言えるかな。

当時は特にアナログな体験をどうやってブラウザ上で追体験させるか、ということがお題としてあった。デジタルのみの体験がまだ少なくて、アナログな体験と組み合わせないとダメだったという時代背景はあるけれども。
たとえば以前に俺がディレクションしたUNIQLOの「UNIQLO LUCKY LINE」というWebサイトでは、基幹店オープンのイベント時の行列をブラウザ上でどう体験させるかというお題をゼロから考えたんだよね。

当時は参考にするものが決まっていなかった故に、多様なWebサイトが多く出てきた印象がある。手探りな状況が逆に独創的なアイディアを産み出した時代とも言えるよね。

ムカイダ:黎明期のごちゃごちゃ感みたいなのがあったんですかね?

ナカニシ:かなりカオティックな状況だったね(笑)



Flashの終焉

ムカイダ:そんな中、Flashというツールは時代の終焉を迎えます。2020年12月31日には完全にサポートが終了し、その役目を終えました。

ナカニシ:寂しいねー。。FlashってFlashプレイヤーさえあればデバイスを問わず同じコンテンツが提供できるメリットもあったから、ユニバーサルな環境にもなり得たと思うんだけど。。ほんとジョ○ズのせいで(笑)

ただ時代によって様々な技術が登場しては消えていく中で、ツールに使われることなく自分が出したい表現を実現するための手段としてツールを使っているクリエイターは強いと思っていて、中村勇吾さんもまさにそういう人だと思う。
例えば、絵描きがいつも使っている筆が製造されなくなったらもう描けない、てことは無いじゃん。「あの筆が良かった」というノスタルジーは感じつつも、でも新たに自分にフィットする筆を探して描く人がほとんどだと思う。

中村勇吾さんは、手段や場所を選んでいないところが素晴らしいと思う。
プロダクトやリアルな体験、VJや映像のお仕事など、技術に対してフラットに接しておられていてそこが一番すごい。
俺もサイト制作だけにこだわらずクリエイティブな活動をしたい、という想いは強くて、そういう意味でも中村勇吾さんとその作品たちは今でもすごくリスペクトしている。

ムカイダのまとめ
「ツールに使われない」という意味では、Flashに限らず、現代で使われているAdobeやFigmaなどのデザインツールであったり、今まさに"黎明期"を迎えて盛り上がっている生成AIという未来のツールや技術においても同じことが言えると感じました。時代とともに新しいツールが生まれ、古いツールが消えていくことは必然だと思いますが、使う側のクリエイターたちが何をどう表現したいのか、目的を見失わず、それを実現するための手段としてツールを駆使していくことが大切だと感じました。

今回はecotonohaを中心に当時のFlash全盛の時代のインターネットについて振り返りました。現代に伝えたいFlash時代の素晴らしいWebサイトはまだまだたくさんあるあるようなので、次回もナカニシさんに色々と話を聞いていきたいと思います。

あなたのWebサイト名盤は、何ですか?

(次回に続く)

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