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2021年に読みたいIT業界人向けの本10冊+個人的なオススメ

AIブームの次はDXブームかと思いきや、コロナで一気にテレワークとペーパーレスが進んだ2020年を終えて、いよいよ量子コンピュータとブロックチェーンの本格始動と並行して、4回目ぐらいのノーコード・ローコードが注目されながら、去年も今年も来年も「AR/VR 元年」な気がする2021年から3ヶ月経ちました。

世の中は常に変化しており、UI/UXの概念を創世記に書き忘れたインターネットによる確定申告も、地味に使い勝手が向上しました(私は郵送しましたが)。
一方でIT業界で働く我々は、今日もSIerをディスり、Web系を煽り、カジュアル面談にキレながらプログラミングスクールに絶望して、年収でマウントを取りながら、楽天とソフトバンクのサービス改悪を横目に、脆弱性を掘り返しています。

そんなIT業界における唯一の共通認識は、読書の重要性です。
私が昨年読んだオススメ本を10冊紹介するので、2021年に読んでみて下さい。
いつもニコニコアフィ無しリンクなので、電子派も物理派も安心です。

プロトタイプシティ 深センと世界的イノベーション

深センと言えば中国の秋葉原と呼ばれた時代を経て世界の工場となり、今はハードウェアのスタートアップが集まるシリコンバレーのような扱いである。
そんな深センの「まずはやってみる」「とりあえず作ってみる」「ダメだったら直す」という、「石橋を叩いて渡る」を180度無視したプロトタイプ駆動によるイノベーションが誕生する背景がよく分かる。
昔の日本でもこんな熱さや勢いを持った会社がたくさんあったと思うわけで。
とはいえ変化の激しい土地柄なので、現地の人からはこの本にある内容も時代遅れかもしれない。
一方で、まだまだ中国に対して「外国のキャラクターをパクったテーマパークが人気で、餃子や肉まんにダンボールが混入して、電気自動車は産業スパイがテスラから盗んだコピー品で、LenovoのPCとファーウェイのスマホからは個人情報が抜き取られて、新型コロナは武漢で開発された生物兵器」という古いネタと嫌中と陰謀論が好きな方々もいるので、アップデートの重要性を痛感する。

アリババ 世界最強のスマートビジネス

中国のIT産業はハードだけでなくソフトも成長しており、代表格のアリババについてよく分かるのがこちら。
ECを祖業として、様々な形でデジタル化された中国社会と経済を牽引する存在となった同社において、現在に至るまでどのようにビジネスモデルを構築したかがよくわかる。
決済のアリペイは「アント・フィナンシャルの成功法則」が詳しく、ライバルとされるテンセントは「テンセント 知られざる中国 デジタル革命トップランナーの全貌」がわかりやすい。
合わせて「中国S級B級論」「ルポ デジタルチャイナ体験記」を読むと、中国らしい雑な部分もよく分かるので、合わせてチェックしておきたい。
一概に「中国は日本より遥かにデジタル化が進んでいる(ドヤァ)」とも言い切れないのだ。

QRコードの奇跡: モノづくり集団の発想転換が革新を生んだ

中国ネタが続いたところで「日本発のITにおける発明とは?」という問いに答えるのが、QRコードである。
1970年代にトヨタの工場で運用されるために、部品メーカーのデンソーが開発した技術は、技術者達の長年の苦悩を乗り越えてついに完成。
まだまだコンピュータが高価で性能も低かった時代に、「工場の現場で使える」を実現するための苦労が本書から伝わってくる。
それが標準化されて世界で使われ、高い評価を手にすることができた。
が、巡り巡って中国に渡って、決済手段として普及して日本に逆輸入される運命の悪戯なのか。
なお、QR決済より以前に日本で普及したFelica(Suicaの中身)については、「フェリカの真実」が詳しい。
ところで技術としては優秀でも、会社の偉い人が理解できずにビジネスとして失敗するオチは何回目でしたっけ……。

ストーリーで学ぶデジタルシフトの真髄 現場と取り組むデジタル先進企業の挑戦秘話

コロナウイルスによってテレワークに移行した人も多いが、それはあくまでオシャレなIT企業のお話。
世の中はまだまだテレワークに移行できない会社もあれば、出社せざるを得ない仕事も多い。
SaaSとZoomとSlackが当たり前なキラキラITスタートアップの常識は世間の非常識であり、現実のデジタル化では本書に書かれた苦労がつきまとう。
「FAXによる手続きをAIとRPAで置き換える」という22文字を実現するために、フツーの会社でどれだけ苦労するのかが詰まった232ページである。
地に足のついたDXとして内製化を進めるには、優秀な人材を集めて、社内の理解を取り付けて、失敗を繰り返しながら、着実に取り組むしかない。
社内政治の苦労と重要性がよーく分かる一冊です。

ファシリテーション型業務改革 ストーリーで学ぶ次世代プロジェクト

こちらも地に足のついたDX本ですが、違いは社外の人間が主導する点。
保険会社の外交員が持つタブレット端末3万台を更新するプロジェクトだが、この手の本には珍しく内部事情や苦労話まで細かく紹介されている。
よくある大企業の偉い人が、外注管理だけ得意な部下から報告された都合に良い話を、経済誌の御用記者がまとめて、結局ただの自慢しか書いてない社内報レベルの本とは一線を画している。
「外部のコンサルタントがいかにクライアントと協力して、信頼関係の構築と合意形成を取り付けながらプロジェクトを進めたか?」を学べる。
同社は他にも全国の工場で異なる会計システムを刷新するプロジェクトの本もあり、こちらも「ある工場が夜勤の社員に支給するパン代について労働組合との権利に基づいて云々」という苦労があるほどだ。
前述の「ストーリーで学ぶ~」と併せて現場の辛さに胃が痛くなるので、精神的に安定している時に読むべし。

不可能を可能にせよ! NETFLIX 成功の流儀

おなじみNetfixの本だが、こちらは創業者(マーク・ランドルフ氏)による起業から株式上場に至るまでのストーリー。
自身の経歴から、Netflixの起業を思い立った延滞金に腹を立てたエピソードを"丁寧に説明"しつつ、現在の社長(リード・ヘイスティング氏)に経営を引き継ぐまでの"0→1"の話が面白い。
どこのスタートアップもそうだが、最初からうまくいくことはない。
創業者はプレッシャーで鬱になり、エンジニアが処理の増加に追い詰められて、投資家は資金調達に奔走して、訴訟を抱えて弁護士に駆け込み、それでも首の皮一枚で生き延びた結果が今につながっている。
なお、既存レンタル店との競争で倒産寸前まで追い詰められて、一気に逆転する白熱バトルは「NETFLIX コンテンツ帝国の野望」が詳しいので、そちらもオススメ。

シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成

「AIとデータで日本をどうやって再生するか?」について、辞書レベルの厚さにまとめた一冊。
この手の本にありがちな「ぼくの考えた最強プラン」ではなく、公的機関のデータを気が遠くなるほど調べて、背景や実現性を考慮しながら提言をまとめているので、そのまま官公庁に持っていけそうなレベルに仕上がっている。
会社で新しいことを始める前の市場調査と社内の説得においても、ここまでやれば役員会を通ると思う。
この手の作業はIT業界が苦手とする政治力の範疇ですが、デジタル庁の新設に合わせて我々にも求められるスキルなわけで、それを高める参考書としてもオススメ。
NewsPicksなので毛嫌いする方もいるでしょうが、本の内容と出版社は関係ありません(少なくとも本書は)。
ところで「再生と育成」という単語も相まって、タイミング的に「シン・エヴァンゲリオン」を想像しがちですが、本の背景としては「シン・ゴジラ」です。
もっとも監督は同じですし、今年の夏に公開される「シン・ウルトラマン」も同じ人が監督なわけですが。

魔王: 奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男

はじまりはある天才プログラマーによるオンライン薬局の運営だった。
彼が作った鉄壁の暗号化プログラムは、ネット世界に闇の権力を生み出す。
覚醒剤の密輸、武器取引、傭兵と暗殺者の派遣で財を成し、報酬は脱税目的のペーパーカンパニーで金の延べ棒で管理するというドラマのような展開。
なぜ彼は金と権力を追い求めるのか、どうやってネット上で非合法組織を作り上げたのか、どこを目指していたのか、何が彼を追い立てていたのか、そこも含めて同情と共感を得ながら読み進めていくのが楽しい。
まるでドラマのような話だが、既に映画「アベンジャーズ」を監督したルッソ兄弟がドラマ化権を取得済みというオチ。
まだまだITには、"色々な意味で"夢と可能性があることを教えてくれる。

Scaling Teams 開発チーム 組織と人の成長戦略

スポーツチームが資金に物を言わせてスター選手を集めたものの、ショボい成績に終わることはよくある。
IT企業も同様で、すごいITエンジニアをたくさん集めても、素晴らしい製品が出来るとは限らない。
そのためにどうするかを考えるのは、経営者や管理職だけの問題ではない。
エンジニアであっても、あくまで組織を構成する一員であり、その答えを求考える必要がある。
高い報酬を得るため、素晴らしい製品を作るため、スキルを伸ばすため、本人にとってどんな目的があろうとも、誰かとチームで仕事をすることは避けられない。
社内文化、ルール作り、立ち振舞、マネジメントなど、チーム作りは立場を問わずに求められることである。
そのために何をすべきかを、この本で学んでほしい。

PIXAR 〈ピクサー〉 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話

世界に名だたるアニメーションスタジオも、かつては赤字を垂れ流すCM向けにCGを制作する下請け会社だった。
スティーブ・ジョブズが自腹で資金を注ぎ込んでも成功する兆しが見えなかった頃、筆者はそれまでキャリアを捨ててCFO(最高財務責任者)として入社する。
ビジネスモデルを見直し、自社の独自技術を発掘して、社員の才能を伸ばす仕組みを作るために、ジョブズと社員の間に入って仲を取り持つ。
過去にディズニーと締結された不利な契約更改のために交渉を重ねる苦労は、契約の重要性を思い知らさせる。
その成果としてトイ・ストーリーが完成し、世界的なヒットによる株式上場を達成するが、縁の下の力持ちとしてCFOの存在は決して小さくない。
ちなみにApple復帰前におけるジョブズの人となりと変遷がわかるのは、結構貴重かと。
本書のテーマである「才能を金に変えることの重要性と難しさ」は、日本アニメーション業界のみならず、IT業界にとっても示唆に富む内容である。

というわけで、IT業界で働く人向けが読んで楽しめそうな本を10冊を紹介しました。
「筆者が去年読んだ本」から選んだので若干古いものも混じっていますが、そのあたり気にしないように。
当初「2020年に読んだオススメ本10冊」として結構前に書いたものの、下書きに入れたまま忘れていたのです。

最新の本が読みたい人は、ジュンク堂書店池袋本店に行って下さい。
技術書が載ってない?そこは各自で必要なものを調べましょう。

ところでnoteはAmazonのURLを一発で貼れるようにしてくれませんかね。
何回やり直したのかと。

最後にITとあまり関係ありませんが、2020年に読んだ"個人的に"一番面白かった本を紹介しておきます。




















2020年で"個人的に"一番面白かった本

このキン肉マン71巻ではキン肉マンソルジャーとブロッケンjrのフルメタル・ジャケッツがオメガマン・アリステラとマリキータマンのオメガグロリアスを破り、ついにタッグマッチが決着!
オメガ一族とザ・マンとの歴史が明かされるかと思いきや、黒幕の大魔王サタンが登場。
かつてはバッファローマンを制裁し、悪魔将軍にも取り憑いてた存在が現実世界では30年ぶりに再登場して、思念が実体化してついにリングに降り立った。
満身創痍のマリキータマンとソルジャーも排除して大暴れ……かと思いきや、それを止めるのは超人始祖としてテリーマンと超人への敬意で負けを認めたジャスティスマンであった。
という感動的で熱い展開を迎えたものの、30年ぶりに登場したサタンはジャスティスマンのセメントマッチでたったの3週であっさり退場。
リアルタイムで追っていた読者への見事な伏線回収に対して、試合内容はジャスティスマンの塩っぷりを見せつけるという、ナナメ上のゆでマジックが炸裂したわけだ(人の話を聞かずに「黙れゴミクズ」は酷い)。
サタン様(あえて様付けしたい)は威厳がゼロどころかマイナスに突入して、次のシリーズにつながる可能性は完全に無くしてしまったが、そこはゴールドマンとシルバーマンに決闘をけしかけたモンゴルマン似のキャラがジャスティスマンだったことも含めて、すべてのキン肉マンに決着をつけるためのファンサービスだと思いたい。
ストーリーはオメガ六鎗客編から、調和の神を筆頭とした超神編に進んだが、ここでもかつての王位争奪編キャラが再登場している。
サタン様と同じく30年ぶりの登場で、試合時間が0.9秒(作者公認の記録だが「グオゴゴゴ」「ノーズフェンシング」「ギャアーッ!」は0.9秒で収まるのか?)だったレオパルドンも復活するあたり、やはりキン肉マンという作品(2世と闘将ラーメンマンはパラレルなので別カウント)のすべてにおいて完結させる覚悟なのだろう。
一方で時代の変化に対応できなかった部分として、レオパルドン初登場おけるるSNSネタバレに対する対応が悪手だったのは残念でならない。
原作者と集英社がSNSのスクショに対するネタバレを厳正に対処する姿勢は著作物を守る企業法務としては正しいのだが、あのような厳しい表現によってファンが萎縮することを容易に想定できたし、もっと柔軟かつ時間をかけた検討が必要であった。
ジャンプ連載当初から「ファンは3人目のゆでたまご」を標榜して、キャラクター人気投票や超人募集などのファン参加型企画を推進しながら、「仕事しない方のゆで」と呼ばれてもイベンやメディア出演をこなし、テレビ番組「トリビアの泉」で吉野家に塩対応されて、「グルマンくん」や「ゆうれい小僧がやってきた!」や「SCRAP三太夫」という過去を乗り越えている。
そんな原作担当の嶋田先生がファン第一主義を貫き通しているのは、言わずもがなである。
とはいえネタバレに対する厳粛な対応は様々な反響、多くは否定的な反発、批判、混乱を招いてしまったのは事実であり、SNS時代に対応するエンターテイメント作品のバランス調整がいかに難しいかをまざまざと見せつける結果となった(この点はIT・SNS・企業法務・顧客との関係構築の関係性などについて、別の機会に掘り下げて検証したい)。
とはいえ現時点(2021年3月15日)でのキン肉マンは、2世で「ウメーウメー」と鉱石を貪り食っていた過去を「都合の悪いことは忘れよ」という悪魔超人の精神で消し去ったキレイなマンモスマンが、ロビンマスクとの真剣勝負を通じて大きな飛躍を遂げようとする場面である。
ここからの大逆転だけでなく、既に展開が予想されるビッグボディとフェニックスの剛力&知性タッグの活躍も期待されるので、毎週月曜日が楽しみで仕方がない。
つまり言いたいことは、2021年で一番楽しみな本は「キン肉マン」ということである。

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