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コロナ禍の初詣について:神社本庁は「初詣は近くの氏神様で!」との声明を出すべき

神社本庁は「初詣は近くの氏神様で!」との声明を出すべき

                      マスパセ(マスク未着用途中降機乗客)

初詣の混乱防止には神社本庁のリーダーシップが不可欠である。特に新型コロナの感染が拡大する中、令和三年の初詣には様々な変更が見込まれる。しかし、全国8万社の神社を包括する組織である神社本庁が合理的な事前策を打ち出してきたとは評価できないだろう。

神社本庁のホームページには「神社における新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」と称する文書が掲載されている。これは、世俗の施設管理のための厚生労働省の推奨事項を神社独特の文体で綴っただけのものである。例えば、神事に携わる人員のマスク着用については、装束としての妥当性の観点からも慎重な検討が加えられなければいけなかったはずである。古来の伝統を持つ神社が近代科学の感染症防止対策に全振りするのも、世俗と宗教の関係を考える上で興味深い問題が現れるが、世俗のガイドラインと神社のしきたりとの両立が十分に斟酌されているとは言いがたい。

もとより神社への初詣の歴史は古くない。宗教学者の島田裕巳氏は、初詣の慣習化を昭和初期に見る。(島田「意外!「初もうで」は日本古来の伝統、などでは全くなかった」『現代ビジネス』、2020年) しかし、いまや初詣は国民の多くにとって重要な新年行事となっており、コロナ禍でも安易にその機会が制約されるべきでない。また、神社境内という風通しの良い屋外での活動で必要性が少ない場面まで、マスク着用が暗黙に拡大される可能性が生じることにも危惧の念を抱く。

有名な大規模神社に参拝に訪れる者が多いが、基本は地域の氏神様にお参りすることである。神社への信仰は、まずは各地域が基盤である。(「あなたが知らない初詣の疑問と作法、教えます」『NIKKEI STYLE』)近年はむしろ地域の氏神様への挨拶を省略し、電車で時間をかけて有名な大規模神社のみに参詣する人々も多いだろう。

コロナ禍では移動の機会を少なくしウイルスの拡散を防ぐべく「ステイ・ウィズ・コミュニティ」が提唱される。遠くの大規模神社への参拝でなく、近隣の神社に初詣に出かけることはこの理念にも合致する。

また神社の側も、小規模なところは建物の修繕費用もままならないほど経済的に苦境しており、神職のほとんどは兼業である。小規模神社の活性化という意味でも「コロナ禍の初詣は近くの神社で」と呼びかけることは効果を持つだろう。実際、筆者の住む郊外地域でも、小規模神社は三が日であっても人の出入りはさほど多くない。参道に長時間の行列が発生することもない。

他方で、地域の氏神である神社への参拝機会の分散は、有名神社の一極集中の緩和にもつながる。例えば、明治神宮が大晦日の夜間閉門を中止することになった(『朝日新聞』2020.12.17)ように、混雑を理由とする神社の利用制限の動きが生じている。明治神宮だけでなく他の著名な神社も追随することが予想される。神社は、国民の宗教活動の保障に対する社会的責任を担っており、安易な閉門の判断を下すべきではない。

筆者は、マスク着用の義務化については少数者権利の保護と個人の自律性の擁護の見地から強く反対しているが、あらゆる感染拡大防止対策を否定するものではない。感染症対策が、個人の権利・自由を制約することなく、また別の社会目的の促進にも寄与するのであれば歓迎すべきことであると考えている。

人の移動を(一定程度)抑制する意味でも、地方の小規模神社の活性化に寄与する意味でも、神社本庁は初詣の本来の趣旨に立ち返って「令和三年の初詣は地域の氏神様で!」と公式に呼びかけてはどうだろうか。


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