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村上春樹×ビートルズ① 小説のタイトルに使われた6曲+a


1.「イエスタデイ」

ビートルズを代表する曲。ビートルズといえばこの曲をまず思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?世界で最もカバーされた曲としてギネス記録に登録されています。

村上春樹さんの短編集『女のいない男たち』には、この曲と同名の作品が収録されています。
木樽は早稲田大学院志望の受験生(浪人2年目)。彼は東京生まれ東京育ちであるにもかかわらず、なぜか関西弁を話す変わった青年でした。ある日、木樽は友人の「僕」にある奇妙な依頼をします。それは木樽の彼女・えりかと交際をして欲しいというものでした。

2.「ドライブ・マイ・カー」

ビートルズ中期を代表するアルバム『ラバー・ソウル』の一曲目です。ジョン・レノン&ポール・マッカートニーによるツインボーカルの強みがいかんなく発揮されています。

村上春樹さんの短編「ドライブ・マイ・カー」(『男のいない女たち』収録)のタイトルとしてこの曲が使われています。『ラバー・ソウル』を意識しているのか偶然なのかはわかりませんが、こちらも短編集の巻頭を飾っています。2021年には、本作をもとにした映画『ドライブ・マイ・カー』が公開され高い評価を受けました。

3.「ノルウェーの森」

「ドライブ・マイ・カー」と同じく『ラバー・ソウル』に収録されています。ジョージ・ハリスンの演奏するシタールの音が印象に残る曲です。

村上さんの代表作『ノルウェイの森』は、この曲からタイトルを借用しています。原題の'Norweigian Wood'は「ノルウェイ製の家具」を指していると一般的には言われています。しかし、日本では「ノルウェイの森」という誤った邦題で紹介され、それがそのまま小説のタイトルとして使われたという経緯があります。

村上さんご本人は『村上春樹雑文集』の中で、この曲の邦題について語っています(詳細は長くなるのでカットしますが、興味があれば是非手にとってみてください)。また記事の後半ではこのような発言があります。

でも何はともあれ、僕らは十代のその時期にこの曲をしょっちゅうラジオで聴いていたし、それは誰がなんと言おうと「ノルウェイの森」と呼ばれる曲だった。正確にいえぱ誤訳かもしれないけれど、それは「ノルウェイの森」というヴィークルに乗って僕らのところにやってきた。そしてそれは僕らの内部に「ノルウェイの森」として位置を占めたのだ。だから,「なにか文句あるか」とまではもちろん言わないけれど、いずれにせよ素敵な題じゃないですか。

(村上 140)

……ちょっと言い訳めいているような気もしますけど、「ノルウェイの森」の邦題が素晴らしいものであることは間違いないです。もし曲名も本のタイトルも「ノルウェイ製の家具」だったらなんだか味気ないですよね?

4.「デイ・トリッパー」

こちらはアルバム曲ではなく、両A面シングルの一曲となっています。イントロのギターとサビのシャウトが印象的な曲です。
 
短編集『カンガルー日和』には「32歳のデイトリッパー」という作品が収録されています。32歳で妻帯者の主人公とその友人の18歳の女の子のお話です。
ビートルズの「デイ・トリッパー」も登場します。

5.「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」

アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の最後を飾る曲。ジョン・レノンが作った楽曲の大部分(前半部と後半部)にポール・マッカートニーが作った未完成の楽曲(中間部)が挿入されているという実験的な構成になっています。

村上さんがイラストレーターの安西水丸さんとタッグを組んだショートショート集・『象工場のハッピーエンド』には「象工場」なる施設に勤める「僕」の出勤風景を描いた「A DAY in THE LIFE」という小品が収録されています。

6.「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」

アルバム『ザ・ビートルズ』(通称『ホワイトアルバム』)に収録されています。『ビートルズを聴こう』という本によると、タイトルは「ナイジェリアの民族語の一つであるヨルバ語で『人生はつづくよ』(Life goes on.)という意味」だそうです(遠山・里中 194)。
 
村上さんのエッセイ集『村上ラヂオ』には「オブラディ・オブラダ」と題されたエピソードが収録されています。
内容は、村上さんが高校時代にビートルズに抱いていた印象や、「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」を流すチンドン屋に遭遇した出来事についてです。村上さんとビートルズの関係についてより深く知りたい方は一読をおすすめします。

番外編:『ウィズ・ザ・ビートルズ』 

曲名以外にも、アルバム名が作品のタイトルになった例もあります。それがこちらビートルズの二枚目のアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』です。

村上さんの短編集『一人称単数』収録の「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」のタイトルとしてこのアルバムが使われています。

ビートルズが世界を席巻していた1964年、高校生の「僕」は学校の廊下で、同学年と思わしき女の子とすれ違います。彼女は美しい女性で、胸には『ウィズ・ザ・ビートルズ』のLPを抱えていました。その女の子は「僕」に忘れ難い印象を残します。
翌年の夏、「僕」はガールフレンドの家を訪ねます。しかしなぜか彼女はそこにはおらず、代わりに応対してくれたのは彼女の兄でした。ガールフレンドを待つ間、「僕」は彼女の兄と会話をします。そして彼が抱えるある問題を打ちあけられるのでした。


引用文献

遠山修司・里中哲彦『ビートルズを聴こう 公式録音全213曲完全ガイド』中央公論新社、2017年              

村上春樹『村上春樹 雑文集』新潮社、2015年

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