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記憶の中の、もみの木で

こんな真夏日でも、
窓を開けておけば風を感じられる。

外からは
マンションの改修工事と道路工事の音が
朝からひっきりなしだ。


私には2人の兄がいて、
私立の幼稚園に通っていた。

私立の幼稚園は終わるのも早く、
大体のママたちは近くの喫茶店やファミレスで
ランチタイムも兼ねて待機していることが
ほとんどだった。

私の母も例外ではなく、
ママ友たちと
毎日子供たちの幼稚園が終わるのを、
"喫茶店もみの木"で待っていた。

正しくそこはもみの木の下、
もしくはもみの木の中のような喫茶店だった。

私は小さい頃から、その場に一緒にいた。

私はそのもみの木が大好きだった。

もみの木は小さな喫茶店で、
テーブル席とカウンター席がそれぞれ4つほど。
ママたちでいっぱいだった。

いつも笑顔の優しい、
とても華奢なおばあさんが
一人で切り盛りしていた。

おばあさんと言っても、
私がただ幼かっただけで、
おばあさんは私の記憶の中よりも
ぐっと若かったかもしれない。

私はここで大好物と出会ったんだと思う。

たらこスパゲッティ。

もみの木のたらこスパゲッティには、
きざみ海苔が乗る。

まだ幼かった私は、
たらこを存分に味わいたかったし、
海苔なんか邪魔だなと思っていたから、
おばあさんはいつも私のスパゲッティには
海苔は乗せないでくれていた。

母やママ友に連れられてやってくる私は、
おばあさんにもとても可愛がってもらった
記憶がある。


「海苔なしだもんね」

と私の記憶の中のおばあさんはいつも笑顔だ。

母はよくここで
ミネストローネのスープパスタのようなものを
注文していた気がする。

それから私はメロンソーダフロート、
お母さんはコーヒーフロート。

もみの木のメロンソーダフロートには、
いつも1つチェリーが入っていて、

みどりのメロンソーダに
赤いチェリーと
白のバニラアイスが

とても綺麗に映えていた。


それから時が経ち、
母たちがここで待機する必要がなくなって、
もみの木には行かなくなった。

そして私が中学生か高校生の時、

「もみの木が閉まり続けている」
「おばあさんに何かあったのでは?」

と母たちの間で噂になり、
私も一度だけお店に向かった。

たしか、一時的に閉まっているというより、
もうお店を閉店しているような印象を受けた。

おばあさんは元気だろうか…

と思ったけど、
誰もその後を知らなかった。


もみの木は、もう無い。

あの辺りは外環道路建設予定地で、
随分と風景が変わってしまった。

それなのに今になって
どうして私は思い出したのだろう。


おばあさん、元気にしていますか?

大好きだった場所。
懐かしい場所。

もみの木。

ありがとう。

美味しいたらこスパゲッティと
メロンソーダフロート。

そしてあの、優しい笑顔。





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