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はじめてのともだちの歌

犬が主人公の物語が嫌いだ。

ハートフルだなんて嘘で、
必ずと言っていいほど彼らは先に逝ってしまう。

家族に愛され、
犬も当たり前のように彼らを愛し、
そして彼らに見守られながら、
先に逝ってしまう。

ハートフルだなんて、でっち上げだ。


はじめてのデートで、
映画館で犬の映画を観てしまった。

私は大号泣してしまい、
エンドロールが終わっても、
館内が明るさを取り戻そうとしても、
嗚咽しながら泣き続けた。

それ以来、
私は絶対に犬の映画を映画館で観ないと決めた。

それからも極力避けた。

たまにホラーもので、
相棒に犬を連れていて、
主人公を庇い、死に絶えてしまうシーンがある。

例えばそう、『アイ・アム・レジェンド』とか。

やめて!と本気でゾンビに叫ぶ私がいる。


私はこれまで、
犬のいない生活を送ってこなかった。

私が生まれる前から、
犬という存在は当たり前だった。

ワンクロウ

ワンクロウは私と同じ年に生まれた。
それでも私よりも前に家にいた。
兄が友人から譲り受けたらしい。


ワンクロウは雑種だった。

映画に出てくるような名犬ではなく、
ただの雑種で、
他人に対して凶暴で、
当たり前のように吠え、
常に先を我が物顔で走り、
私の幼馴染みの男の子の頬を噛んだ。

昼間は庭の犬小屋に繋がれていたが、
夜は縦横無尽に庭を駆け巡った。

たまに家から脱走しては、
突然戻ってきた。

ワンクロウが外で何をしていたかは知らないが、
2軒隣の家によく似た子犬が誕生したことを
母はよく怯えていた。

ワンワンと何にでも吠える、
チャイロのワンクロウ。

生命力のあるワンクロウは、長寿だった。

なんの病気もしたことがなかった。

私が成人式を終えた年、
私たちの元を離れようとしたのか、
高いところから飛び降りてしまい、
その数時間後に安らかに逝ってしまった。

ワンクロウが飛び降りた朝、
それを聞きつけた遠方に住む兄たちは
急いで実家に戻ってきた。

母が一番泣き、
ワンクロウを譲り受けた兄はそっと抱きしめた。

白いタオルに包まれたワンクロウは、
凶暴さなどどこにも無く、
あるのはか細い体だけだった。


ワンクロウが生きている間、
もう2匹の犬が我が家にはいた。

1匹は
ペットショップにいた頃から病があったらしく、
あまり長くはなかった。

モデル犬かと思うほど綺麗な顔立ちで、
今でも同じ犬種を見かけては、
あの子の方が格好よかったと思う。

もう1匹は今も実家で暮らしている。

小さいくせに大きなものに臆することなく、
どんどん近寄って行ってしまい、
その挙げ句にガブリとされる。

たまにタガが外れたようにソファを行き来し、
そうなったら誰にも止められない。

今は脚を痛めたこともあり、
実家のリビングの床はふかふかなものが敷かれ
犬仕様になっているらしい。


私は犬が主人公の物語が嫌いだ。

彼らは私たちを無条件に愛し、
さまざまな思い出を残して、
先に逝ってしまう。


それでもついさっきたまたま観てしまった、
『エンツォ 
 レーサーになりたかった犬とある家族の物語』
は、爽やかさもあった。

もちろん私は終始号泣で、
ティッシュをどれくらい使ったか分からない。

物語はフィクションかもしれないが、
私にとっては身近に思える。

だから、私は犬が主人公の物語が嫌いだ。



私がはじめて作った歌がある。

はじめてのともだちの歌。

作った時のことは覚えていない。

それほど私が小さかったから。

知らぬ間にいつも歌っていた歌。

家族みんなが歌える歌。





ワンクロウーいてもー、だーいすきー

ワンクロウーいてもー、だっこするー




ワンクロウ、今頃どうしてるかな。




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