【白の手帖】3頁「囁かな窓際」
指先だけで撫でるような
癖のないその声が好きだった。
ただいま。
ブラウンの扉。
窓際の観葉植物を抱えた土は湿っていて、
薄いカーテンから綻んだ光を浴びている。
ささやかな霧吹きの音が響く。
鼻歌はまた変わったのに
あなたは変わらない。
指先だけで撫でるような
癖のないその声がずっと好きだった。
おはよう。
ブラウンの扉。
けれど
あなたはもう居ないのかもしれない。
私はいつの間にか声が枯れて、
観葉植物も少しだけ枯れた。
あなたはもう居ないのかもしれない。
私は扉を開ける勇気がなかったよ。
その先に何があるんだろうね。
今更だと思いながら湿らせた
植物がまた光を帯びた。
その薄いカーテンに手を掛けてみた。
大丈夫。
あなたの声が
聴こえた気がした。