骸骨探偵は死の理由を求む 第11話
霊次に連れられて船着き場に着てみると、キョロキョロと挙動不審に動き回る男の人の姿が見えた。
「確かにあのお客様、変だね」
「そうなんだよ。
あっ、辞めてって言ったのに!」
霊次は急にスピードを上げ、挙動不審な男に近づいて押し問答している。
私も駆け足で側に行ってみると、大学生くらいの男はカメラを手にあちこちでシャッターを切っていた。
って、カメラって冥土に持ち込めるの!?
「すごい! ここが冥土ですか!!」
「や、やめて下さい!」
男は興奮した様子で、霊次の制止も聞かずにシャッターを切りまくっている。
カールした茶色っぽい髪の毛に、太めの黒縁眼鏡。その奥の瞳をキラキラと輝かせている様子は、なんとなくトイプードルっぽい。
赤チェックのネルシャツに太めのジーパンに黒いテニスシューズ。
全てに色があるので、まだ死者ではない。
「あのぉ、お客様?」
私が声を掛けると、いきなりこちらを向いてパシャリと1枚。
ちょっと、それって盗撮なんじゃないの?
少し引きつった顔の私を気にせず、トイプードル男はずんずんと近づいてきた。
「他の人とずいぶん見た目が違うけど、君も渡し守さん?」
「いえ、私は人間なので渡し守ではないです」
「じゃあ、僕と同じ死者ってことか」
「いや、私はここでお客様案内係として働いていて……」
「マジでーーーー!?」
カシャカシャカシャカシャ!
男は急に連続でシャッターを切り出した。しかも、いろんな角度から。
盗撮ってレベルじゃもはや無いんだけど……。
もはや引きつった顔を隠す気もなくなった私をよそに、男の大声でまくし立てる。
「冥土には人間のお客様案内係がいるなんて!
これはスクープ! 大スクープだよ!!」
こちらが状況も把握できずにポカンとしている間に、男はどんどんテンションが上がっていったようで、遂には
「これはオカルト史上を覆す新発見だ!」
とか
「『冥土のメイドに独占インタビュー!』とか最高の見出しだな」
とか訳の分からないことをベラベラと独りでしゃべり出していた。
「ちょっと、いい加減に……」
文句を行ってやろうと口を開くと、男はくるりとこちらを向いた。
その目は爛々と光り、明らかに正気ではない。
「冥土のメイドちゃん!
早速インタビューしたいんだけど、答えてくれるよね?
ねっ?」
そう言って、男は顔をにやつかせて、後退りする私を気にも留めずにジリジリと近づいてくる。
トイプードルなんて思ったけど、とんでもない!
人の話も聞かずに近づいてくるこいつは、完全にゾンビ犬だ!
「キャーーーーーーー!」
恐怖のあまり叫んだそのとき、ふいに男のカメラが宙に浮いた。
「咼論!」
そこにはカメラを片手に持った咼論が立っていた。
黒いパーカーのフードを被った骸骨姿は、相変わらずだ。
「わっ、骸骨!」
普通の人間なら、この骸骨姿に驚くところなのだが、男は感動したまなざしでしげしげと咼論の姿を見つめていた。
「君は、他の人と違ってスタンダードな渡し守さんって感じだね。
人間タイプと骸骨タイプと2種類いるなんて、リアルな冥土は違うなぁ!
骸骨君も撮影したいから、カメラ返してくれないかな?」
「消せ」
「へっ」
咼論の冷たい言葉に、男の口から変な声が漏れる。
「写真を消せ」
「な、何言ってるんだよ。そんなことより、僕のカメラを返してよ」
取り返そうとする男の手を遮り、咼論はカメラをより高く持ち上げた。
そして眼はないはずなのに、明らかに男の方を睨んでいる。
ヤバい。
珍しく咼論が本気で怒っている。
「ぶっ壊されたくなければ消せ。
そして謝れ」
「い、嫌だよ!
リアルな冥土の写真なんて僕らオカルトマニアにとってはお宝だよ。
いや、夢といっても過言では……」
「もう一度だけ言う。
消せ。そして謝れ」
咼論の声と眼光に今まで感じたことが無いような冷たさを帯びる。
私よりつきあいが長いであろう霊次ですら、真っ青になって立ち尽くしている。
男は青白くはなっているようだが、まだウジウジと抵抗を続けている。
私は慌てて、
「お客様、この骸骨本気ですよ!
下手すると大事なカメラがグチャグチャにされちゃいますよ!」
と言う言葉に合わせるかのように、咼論はカメラを持った手を大きく持ち上げた。
「分かった!
謝るからカメラを下ろしてくれ!!」
男がようやく抵抗をやめて項垂れたのを見て、咼論は深い溜め息を吐いてから、その手をゆっくりと下ろした。
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