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骸骨探偵は死の理由を求む 第12話

 画像を消去するときに少しだけ抵抗したが、本気で怒っている骸骨に至近距離で睨み付けられたら、さすがのゾンビ犬男も怖かったのか、泣く泣く画像を消していった。

 全部消し終わったころには落ち着いたらしく、先ほどとはうって変わって大人しい様子で私たちに頭を下げた。

「僕、河原木智樹といいます。
 先ほどはテンションが上がり過ぎちゃって、スイマセンでした。

 僕、こういう冥土とか幽霊とかオカルト関係のことが大好きで、ときどき暴走しちゃって……。

 今は大学生なんですが、オカルトライターもやっていて……『月刊マ・ムゥ』って雑誌知らないですか?」

「あっ、本屋さんで見たことある。
 確か超常現象とか幽霊とか宇宙人とか、そんなのがいつも表紙に載ってたような」

「そう、それです! 
 僕、その雑誌の専属ライターをやっていて、日夜オカルトな話題を追い続けてきたんですが……。
 まさか、憧れの冥土に来られるなんて夢にも思わなかったなぁ」

 河原木は、またテンションが上がったのか満面の笑みを浮かべる。

「冥土に来るのが憧れだって言う人もいるんだね」

 恍惚とした川原木をよそに、霊次がヒソヒソと耳元で呟いたので、私も

「普通はいないから!」

と返した。

 こうしている間も河原木は「写真が撮れないなら、記憶に焼き付けなきゃ」とか言いながら、川原の砂利や船着き場などをじっと見つめている。

「霊次どうする? あの人全然死者になりそうにないけど」

「どうしよう……。僕、そろそろあがらないといけないんだけど、さすがにそのままにしておけないよ……」

 霊次がシュンと肩を落としたところで、咼論がくるりと踵を返した。

「ちょっと、咼論! どこに行くのよ」

「どこって、俺の船着き場に決まってるだろ。仕事だよ、仕事」

「いやいや、あの人どうするのよ?」

「ああ言うのは、放っておくのが1番なんだよ」

 咼論がぶっきらぼうに言う。

 だが、お客様案内係としては無視できない案件だ。

「一応お客様だし、そういう訳にはいかないよ!
 ねぇ、咼論。霊次も困ってるし、手を貸して!
 お願い!!」

 私は目をつぶり、力強く手を合わせた。

 やがて諦めたようなため息が聞こえたので、目を開けると咼論が

「面倒くせえ」

と頭をカシュカシュ掻いて、一心不乱にベンチをチェックする河原木の方へと歩いて行った。

 私と霊次は顔を見合わせてハイタッチし、咼論の後を追っていった。

「おい、お前。聞きたいことがあるんだが」

 咼論がぶっきらぼうに声を掛けると、河原木はビクリと肩を震わせてこちらを向いた。

 よほど先程の件が怖かったようだ。わずかに唇が震えている。

「ちょっと、咼論!
 そんな聞き方じゃ、話せないってば!
 えっと、河原木さん……でしたっけ?」

 河原木は、高速で首を縦に振った。

「改めてまして、私案内係の伊藤亜澄っていいます。
 あなたの亡くなった状況を聞かせてもらえませんか? 
 当日のことを覚えていないでしょうから、1週間前からでいいので……」

 私がそう言うと河原木はキョトンとして

「僕、当日のことはっきり覚えてますけど」

 と答えた。

「え、嘘でしょ?」

「本当ですよ、僕記憶力いいので! それに……」

「それに……?」

「念願の幽霊に殺されたんですよ! 忘れるわけないじゃないですか!!」

 河原木は、その日を思い出したのか、どんどん鼻息が荒くなって

「幽霊に呪い殺されるって、オカルトマニアにとっては最高の死に方だと思うんですよね! まぁ、悪魔とか妖怪とかでもいいんですけど……」

なとど、独り言をつぶやきだした。

 また当分話ができそうにない。

 私はため息をついた。

「ねぇ、霊次。幽霊ってマジでいるの?」

 興奮する河原木を横目に、霊次にヒソヒソと話しかける。

「稀に恨みや未練がありすぎる魂が、冥界に行くのを拒んで現世に留まることはあるよ。それを幽霊って言うんじゃないかな」

 霊次はさらっとそう答える。

 いるんだ、幽霊って。

 一瞬怖くなったけど、よく考えたら今の私もある意味幽霊と同じか。

「まぁ、死んだ魂は生前の記憶が徐々に曖昧になっていくから、未練や恨みの気持ちが薄まって、いずれはこっちに来るんだけどね」

「へぇ、そうなんだ」

 私がそんな話をしていると、見かねた咼論が

「さっさと話を進めろ」

 と強めに言い放った。

 その声にビクリとした河原木は、独り言を止めて謝りながら、まだ少し興奮したまま早口で話し始めた。

>>>第13話に続く


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