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【連載5話】妖怪コハクとAIマキナ Call Sign

あらすじ
妖怪とアンドロイド、正反対の二人が最強の相棒となり、悪を蹴散らす旅が始まる。
ジャンル・SFファンタジーバトル

【第5話】謎

「うわ〜僕バス初めてだ!……あれ、人間がいない?」
「無人バスですから」
「え……」

 調査の旅に出た僕らは今日、タケの「人間の町にも行ってみるか」という提案から山のバス停で佇んでいた。

 いつも遠くで見ていたバスが徐々に近づく。高鳴る気持ちで待っていたけど運転席が空になっているのが見えて驚いたものだ。

「梅婆は人間が運転してるって言ってたよ」
「昔はそうしていましたが、人口減少のため無人バスが増えました」
「そうなんだ……」

 少し残念に思った。切符を取って車掌さんにお金を渡す練習までしたのに……けど仕方ない。そんなことを考えていたら、バスは目の前に来ていてタケがマキナへ質問していた。

「まあ人間にバレなきゃいい────」
「監視カメラはありますが」
「なに」
「まぁ、私たち機械には妖怪が見えても人間に見えるので問題ありません。金額は私が払っておくので大丈夫です」
「マキナさんありがとう。タケ、とにかく乗ろう」
「琥珀……分かった」

 タケの袖を引っ張り、せっかくバスが来たのだからと乗ろうと急かす。

 こうして琥珀たち4人以外に誰もいないバスは静かに走り出した。琥珀は窓際の席につくと景色を食い入るように見つめている。

「あの、気になっていたのですが人間は妖怪をどのように認識されているのですか? 私達アンドロイドには皆さんが人間に近い形で表示されるのですが……妖怪が見える人間は決まっているのでしょうか」

 バスの窓から地面を確認して早い速度に感心していると、マキナさんから質問が。

「人間には普通妖怪が見えないよマキナさん。退治屋の人たちは見える人達で、稀に見えたり感じたりする人間がいるくらいだよ」

 だから人里に降りるときは、念のため妖怪って分からないように一応狐耳と尻尾を妖力で抑えて無くすんだけど、これ体力奪われるんだよね。妖力が少なくなるし。

「そうなのですか。幽霊と同じ認識なのですね。不思議です」

 マキナさんは説明に納得してくれたようだ。

「機械には見えてるのか、驚いたな。俺達が人間に近い形って、どんな感じなんだ?」

 タケが同じく疑問に思っていたことを先に聞いてくれた。

「……お伝えするのが難しいですが──アンドロイドと人間では視界が違います。貴方たちを人に近い生き物として認識し、よく確認すると光っているように見えるので人間や動物と違うと分かります」
「「へ~」」

 タケもヨシノ様も僕も口をポカーンと開けて、自分たちが他からどう見られているかを知る。

 そのあとはバスに慣れているヨシノ様がタケに昔話をふって4人で談笑し、穏やかな揺れと共に山を降っていった。

  ◇◇◇

 ゆっくり昼時の眩しい太陽がコンクリートで出来た道を照らし、細かいカーブに差し掛かると……

「わぁバスってすごい! 人間って面白い発明するんだね。面白いよ! ──僕、外に出てきて良かった」

 重心の移動と少しの揺れに思わず胸が高鳴る。

「それなら良かったです。あ、窓はそれ以上開けてはいけませんよ。危ないです」

 どうやらマキナさんは子育てスイッチが入ってしまったらしい。横に座っていたマキナさんの手が肩に優しく触れる。

「はーい。ねえ、マキナさんの好きなものってある?」
『──マキナの好きなものは何ー?──』
「え」
「マキナさん?」

 あれ、マキナさんの様子が何か変。戸惑っている? なんだろう。

「何でもありません。好きなものでしたね、私が受け取れるものでしたら嬉しく思いますよ」

 マキナは琥珀の考える通り戸惑っていた。琥珀の言葉が記憶の片隅にあった『誰かのセリフ』と被ったからだ。

 ──アンドロイドは記憶が薄れないし、忘れない。

 しかし……マキナは『セリフ』を発する少女の顔が見えず誰か分からなかった。

「えっと、例えば……」
「……私には好き嫌いがそもそも無いので、何でもいいですよ。貴方が一生懸命選んだのなら何でも」
「そっか……あ、見てあれ松の木だよ」

 琥珀の質問にいつも通りを装って、人間が好むであろう言葉で答えるマキナ。琥珀もそれ以上聞くことはなく、話を逸らしていった。

  ◇◇◇

 時間はあっという間に過ぎ、お昼ごはんのために一度バスを降り、乗り継いでようやく人里のバス停に降り立っていた。

「お話ありがとうございました!…………うーん、やっぱりここも同じ」

 丁度妖怪がいたので聞き込みをして短く言葉を交わして見送った。田舎の人里は穏やかな時間が流れて、人ものんびりと畑を耕している。

 ここの妖怪も琥珀たちの山と同じく、人間の邪魔をせず穏やかに暮らしていたようだが1、2年で何故か退治屋が活発化しているらしい。

「また1、2年か」

 タケは腕組みをして考え込んで、マキナは顔を傾けて人間が悩む仕草をした。

「……心境の変化、または方針の変化? 何があったのでしょうか」
「私もさっぱり分からないわ〜」

 考え込むマキナと分からないから考えるの止めとく! と続け放り投げたヨシノは正反対の性格のようだ。

「あ、そうだ。今日の寝所! 確保しましょ。ね! 琥珀くん」
「わわっ」

 急に両肩をヨシノに押されて慌てる琥珀。

「もうヨシノ様! 真面目に!」
「えぇ〜真面目よ。それに『様』は止してよ。私たち旅の仲間でしょ。よく童話でも呼び捨てだったり愛称だったりするじゃない」
「うっ。……じゃあヨシノさん、今はみんなで考え──」

 ましょう、そう続くはずの言葉は突然の氷の攻撃に飲み込んだ。

 ヒュッ──バリーン!!

「へっ!? な、なに」

 琥珀は気づいていなかったがヨシノとマキナ、タケは素早く避けた。琥珀を腕に抱えて避けたのは1番近くにいたヨシノだ。氷は木々に当たって粉々に砕けている。

「ちっ、避けたか。おい妖怪! それ以上町への侵入は許さん!」

 攻撃が来た方向を見ると、そこには男が1人立っていた。お札を手に呪文を唱えている……ということは退治屋だ。

「あ、あの! 僕らは隣り山から来ましたが人間に危害を加えるつもりはありませ──」
「悪鬼の戯言など聞く必要なし!」
「そんな」

 結局説得出来ず、またいつものバトルが始まってしまった。琥珀は最初に話し合おうと必ずするものの聞き入れられたことは一度もなく、歯痒い思いをしていた。

「またですか。話を聞かないタイプの人間……こういう時は先手必勝ですね」

 冷静に判断しフライパンを手に持つマキナはそう言うと走り出した。

「妖怪が……な、なに!?」

カキンっ──

 男はお札から出た追加の氷の攻撃をフライパンで弾かれ驚いている。その隙にマキナは目前まで迫り、足技と素手で対抗し背負い投げを決めていた。

ドサッ!!

「さて、話を聞きましょうか」
「くっ、アンドロイドが何故……………………」

 退治屋の男は呻き声をあげるもパタリと静かな息遣いに変わった。

「──ま、マキナさん気絶してます」
「え、加減したつもりですが。では……暫く縄で縛って待ちましょう」

 切り替えの早いマキナさんに感心しつつ、ヨシノは腕に抱えていた琥珀を下ろしながら笑う。

「ふふっマキナが居れば一瞬ね。唖然としちゃったわ」
「僕もマキナさんみたいな力ほしい──」
「それは無理でしょう。造りが違います」
「マキナ、もっと言い方考えてよ。琥珀くんは貴方の強さに憧れてるのよ?」

 退治屋が静かになったことで一気に緊迫した空気はなくなり、タケは縄で退治屋を近くの木に縛っている。

「ああ、失礼しました。それより──先程この退治屋が落とした物が気になっていまして」
「マキナさん?」

 戦いの最中、どうやら退治屋の懐から落とし物があったらしい。

「確かこの辺り……これは────────何故スマホがこの町に存在しているのです」


【第6話】へつづく。

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