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ロボットと妖怪 (約5分で読める短編小説)

朝焼けに、花束を持って山を登ってくる者がいた。
長袖の白いシャツに黒のズボン、腰の赤いエプロンが特徴の女性だ。

「誰かーー助けて! 誰か」

そんな彼女に向けて叫ぶ小さな子ども。肩に怪我を負っている。

「叫んでも無駄だ。人間は妖怪が見えないからな」

茂みには子どもの格好をした子狐と長い杖を振り回す男が対峙していた。

「そんな……僕、何もしてないのに」

すがるようにもう一度女性を見るも、表情一つ変えずこちらへ歩いていることに絶望。

「そもそも異形は存在が要らないんだよ。 〜〜〜〜消えろ!」

詠唱し始めた退治屋の男に言い返す間もなく、木の枝で何とか頭を守るよう身構えた。



その時。



「ぐはっ あぁ……」

想像していた痛みはやってこなかった。

子狐は地面に叩きつけられた轟音と悲鳴も自分ではないと気づいて顔を上げると驚いた。

意地の悪い退治屋は遠くへ飛ばされて倒れていたからだ。



「挨拶もなく失礼。愚か者への挨拶は鉄槌主義でして」




落ち着いた口調が真横で降ってきて子狐は息を呑む。
そう、赤い腰エプロンの彼女だ。

花弁が舞い散る中、ポケットからハンカチを出し手渡された。

「あ、ありがとうございます。あの……見えるんですか!? 手は痛くないですか?」

ハンカチで肩の血を押さえつつ、子狐は考えた。

人間でも見える人が僅かにいる、穏健派の退治屋か、一般人でも見えるだけの人。

「見える、心配は不用、私は自立型AI搭載ロボットです」

その言葉に混乱する。

自分たち妖怪にとって、人間が作ったロボットは謎の物体だ。
味方なのか……敵なのか分からない。

「あの、退治屋は生きて……」

「生きている。気絶してるだけで身体に異常なし」

一抹の不安が拭われホッと胸を撫で下ろす子狐。

「ロボット……人間じゃないから見えるのかな? よく分からないけど……」

「深く考えないことです。墓参りに汚い物を見かけたので掃除しようと思ったまで」

無表情で冷静な見かけによらず、辛辣な物言いにロボットって皆こうなのかと思う。
妖怪とロボットなんて水と油で、関わることがないとも思っていた。

「掃除って……あっ、花が……」

彼女の周りには花束が落ち、花弁が散っていた。

「また買えばいいので、気にせず」

そう言って去っていく彼女を慌て追いかける。

「いや気にしますっ。お礼をさせてください! 花は用意します! あ、僕は妖狐のハクです。お名前を聞いても良いですか」

初めて見たロボット。

こんな田舎じゃ中々お目にかかれない、この出会いを大切にしたいと思って名乗った。

「……私はマキナ。お言葉に甘えて花の用意、よろしくお願いします」

これが僕とマキナさんとの出会いでした。




翌日__
弁償、花を用意するべく友達の精霊に相談しにいった。

マキナさんは、まだこの地域にいるらしく七日後にあの森の入口で待ち合わせしている。

帰っちゃう前に渡さなきゃ。

「ロボットか、すごいな。花束か〜人間の花屋に行かなきゃな。人間のお金は山神様に換金してもらわないと」

彼は竹の精霊、タケ。僕より10年ほど先輩なので物知りだ。

「そうだよね……人に化けることは出来るけど、お金は……」

「まあ、何かと交換だろうな。山神様に近い知り合いがいるから聞いてみよう」

「ありがとうタケちゃん!」

タケちゃんは人型をとっていて、緑の瞳以外は人間の姿そのものだ。

僕も人型に化けてるけど、妖力が足りないのか耳と尻尾が見え隠れしてしまう。

ほんの少しジェラシーを感じてるのは秘密だ。

「それにしても、噂は本当だったんだな」

呟くタケちゃんに噂って何、と聞き返した。

「都会から来たロボットは目が合ったが最後、過激派の退治屋を爆破して最後は食べるってさ」

「ええ! だいぶ盛られてる……マキナさんで間違いないけど、爆破しないし食べないよ」

とんでもなく盛られてて驚く。

「そうなのか、ロボットって謎だからな〜俺たちと目が合ってるようで無視というか……」

「確かに……見えてるんですかね? マキナさんは見えるって言ってました」

「よく分かんねーな」

僕もよく分からない……頭が痛くなるから考えるのやめよう。

そうして二人で桜並木の町まで山を降りた。

「おーい吉野」

桜並木に語りかけるタケ。

「おや、タケと……妖狐かな」

頭上からの声に驚きつつ、桜を見上げると枝に着物の女性がキセルを吹かしていた。

桜の長髪も雰囲気も妖艶で、大人な魅力に頬が思わず赤くなってしまう。

「はい! ハクといいます、はじめまして吉野様」

照れ隠しに耳を隠すフードを触る。

「元気な子じゃ、よろしくなハク。話は桜の木々たちから聞いている、マキナに助けてもらったって?」

「はい。マキナさんとは……知り合いですか」

「昔からの付き合いでね。早速だが、通常山神は木の実で交換してもらうが……今は余裕が無くてな」

余裕が無い、そう聞いて不安になるハク。

「退治屋で、最近過激派が町を荒らしているだろう? 逃げてきた妖怪の保護に忙しゅうて機嫌が悪い」

「そんな……どうしたら」

「そこでじゃ、山神は用心棒を雇いたいらしくてな。報酬は弾むそうだ」

「それって!」

片目を瞑り、口元に笑みを浮かべる吉野の姿は美しさが深くなる。

一つの希望に心弾ませ、タケと一緒に吉野の話にのることにしたハク。





吉野によって町に残っていた妖怪たちのところに案内される二人。

「みんな、用心棒を見つけてきたぞ」

「なんと……助かります。本当にありがとう。過激派は乱暴と聞いていたので怖くて……」

十人以上いた妖怪は詰め寄り、ハクもタケも身が引き締まる思いだ。

「これは……失敗できないな」

「うん」

こうして二人は人間に化けながら、町から山中の神社まで向かう途中の護衛になった。

「いたぞ、妖怪め、〜〜〜〜!」

「ソメイヨシノの名において……通さぬ」

吉野様は桜吹雪を、タケちゃんは周りに竹がないため子どもの妖怪を抱いて走る。

僕はというと、

「化け狐なめるなよーー!」

退治屋の攻撃が妖怪に当たる、と思ったら切り株になっているという妖術だ。

神社まで辿り着けば神域だから退治屋でも術は使えない。
神域での争いは妖怪も人間も御法度。

「ハク! あと五人だ」

火力は弱いけど、狐火をポンポンと可愛らしいサイズで出した。

そして、退治屋の周りを舞い、あらかじめ掘っていた落とし穴に誘導し……落とす!

「わぁっ何だこれは」

鳥居の前で走るタケと逃げる最後の五人の妖怪たち。

「やった!」

やったのも束の間、次の過激派が潜んでいるとは思わなかった。

「残念、可哀想に」

「え……」

詠唱無しで自分を横切った熱風。

それは鳥居に走る最後の一人……妖怪の子どもに炎の刃として切り掛かっていた。

何秒にも満たないはずなのにゆっくりと時を感じ、目が離せない。
子どもも後ろに迫る刃に目を伏せた。

その瞬間。



「頑固な汚れはお断りなのですが」



子どもを背に両腕をクロスさせて炎を弾いていた。

「騒がしいと思ったらまた……君は巻き込まれる天才なんですか?」

「マキナさんっ」

またもマキナさんに助けられた。

「なっ、妖怪なのに効かない!?」

「ロボットなので」

「は……何で見えてるんだ」

詠唱なしは退治屋でも上級者でプライドも高いと聞くから、マキナさんの存在に戸惑いつつも身を引かない。

「これでもくらえ!」

火球が何個も連続でマキナへ向かう。

「だから、対妖怪用は効かない」

避け方がアクロバティックで、木々を利用し身体能力の高さを表していた。

マキナは火球の行方に視線を向けたが、木や自然に被害がないことを知ると振り返った。

「なるほど、妖怪にだけ効く能力」

「危ないマキナさん!」

退治屋の長い杖がマキナを殴ろうと襲いかかろうとしていた。

バキッィ

しかし、凄まじい音が響き杖が折れるというか砕けた。

「す、すごい」

マキナさんが素手で掴んで砕いたんだ。

「ただの物理攻撃です。これが一番手っ取り早い、詠唱するなら口も……」

拳に手の平を当てパシッと良い音が鳴る。

「ひ、ひいいい。化け物だ」

淡々とした語り口調が、更に怖さが増したのか退治屋は一目散に逃げ出した。

そして落とし穴にいて一部始終を見ていた退治屋は青ざめながら帰っていった。

もうしませんと、約束して。





「かっけーーあんたが噂の都会からきたロボットさんか」

「正しくは自立型AI搭載ロボットのマキナです」

「うん、なげーしよく分からんからマキナちゃんな。俺はハクの友達、竹の精霊タケだよろしく」

「……はじめまして」

タケちゃんと挨拶を短く済ましていると、十人ほどの妖怪たちが集まってきた。

「ありがとうございます、マキナさん」

「お姉ちゃんカッコいいね」

大人も子どももマキナの無表情は気にせずお礼を伝える。
タケちゃんとのやり取りで怖くないと思ったのかもしれない。

「事情は知りませんが、無事で良かったです。ところで吉野……神社にきて欲しいってこういうことで?」

桜の髪を艶やかを靡かせている吉野を見つめるマキナ。

「あはは〜退治屋も結構強くて困っていてな。マキナが協力してくれれば良いなと思って」

「都合よく使われたわけですね」

無表情だけど、じっと見ていると表情が変わるのが分かる。
今は冷んやりとした瞳だ。

「まあまあ、そんな怒らずとも。小狐のハクくんがお礼したいって言うから花代稼ぐのを協力しておる」

「……あの約束果たすつもりで?」

マキナさんは僕を意外そうに見つめた。

「もちろん、人間と違って社交辞令ではないぞ。妖怪は約束を破らないものだ」

「それは……ありがとう」

マキナさんにお礼を言われて、こちらこそと笑い返した。

「さ、というわけで。仲間がそろったのでこの町の過激派一掃チーム結成じゃ」

「「はあ!?」」

桜をポンポンと紙吹雪のように舞わせる吉野様に、タケちゃんもマキナさんも詰め寄った。

「山神に許可は得た! やってみたかったんじゃチーム戦! 力を合わせて勝利を手に」

「吉野、あんたハクを利用したな」

タケは吉野の行動力に呆れつつ、納得したような顔だ。

「おかしいと思ったんだよな、面白くないと乗らないあんたが直ぐ協力するから」

「何じゃ悪いかの、罪なき妖怪を守るため退治屋に対抗できる手段は必要だろう?」

頬を膨らませて、憎めない雰囲気を醸し出す。

「まあ……仕方ないな」

「僕も協力します。まだ妖力は弱いけど罪なき妖怪を助けたいです。それに花代も!」

そんなタケとハクを見て、マキナも折れた。

「わかりました、私も協力しましょう。けど私がここに滞在する期間だけですよ」

こうして、四人は過激派一掃チームとして町に名を馳せることとなる。


「あっ、花代……」

報酬で花を買おうとしていたが、チームということで自分の稼ぎじゃないことに気づいたハク。

「チームだけど各々報酬が貰えるのでは?」

「もちろん! 安心せよ」

悩みはすぐマキナと吉野に払拭された。

「ハク、沢山の花束を頼みます」

「はい!」

ハクは初めてみたマキナの微笑みに、嬉しくなって元気よく返事をした。



助けてもらったこのご恩を必ず返す、それを胸に。

__後編へ つづく


ここで終えても良いように、キリの良い読み方ができるように前後編に編集しています。

いかがでしょうか?
ファンタジーとSFは水と油な気がしていたのですが……皆さまはどう感じたでしょうか。

少しでもアリだ、面白いと思って頂けたら良いねボタンよろしくお願いします✨

ちなみに表紙の下に隠れている文字は16進数です。

気になる方は後編表紙の切れている部分と合わせて調べてみてくださいね。

byひより

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