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門出の花(ロボットと妖怪、約5分で読める短編小説)

この世には、ファンタジーな存在である妖怪と人間、そしてSFの存在……

ロボットがいる。

お互い干渉せず絶妙に保たれていた三つの種族は、最近、その均衡が崩れかけていた。

今、とある噂が飛び交っている。

妖怪退治屋の攻撃を素手で吹っ飛ばす、掃除屋がいると__

田舎で退治屋の過激派が暴れているから対抗するらしい。


バキッ__ドサッ

「なんか凄い音したけど!? 大丈夫なのか」
「問題ありません、生きてます」

会話する男女二人の横で男が倒れている。

「念のため竹で運ぶぞ、町まで」
「ありがとうタケ」

タケと呼ばれた男は倒れた人へ手をかざすと、近くのタケノコが成長し竹の担架が出来る。

そうして二人は担架を運びながら山を降りていった。






生い茂る深い森。

そこへ入っていく十人の男女が何やら不思議なお札と棒を持ち歩いている。

ちょうど森から出て来た猟師は、猪を狩り終えその男女とすれ違う。

二十、三十代の若い異様な集団に二度見しつつ関わらないよう軽トラで去っていった。

「なぁ、やっぱ止めようぜ」

森も深くなった所で、一人が足を止めた。

すると全員同じように立ち止まりそれぞれ話し出す。

「だからこそ、この人数で来たのよ?」
「けど変な噂もあるし……ロボットが襲ってくるとか」
「弱気になるのはよせ。もしそうでも俺は戦う」
「僕はやっぱり降りる」
「なっ、話が違うわ! みんなだって一人は嫌だから参加したんでしょ」

言い合いは止まらない。

「落ち着けよ。こんな田舎にロボは居ない、それに何でロボットが妖怪の味方するんだ」

男が一人、冷静に歩き始めた。

「た、確かに」
「切り札だって……ある」

その言葉が効いたのか、十人は結局誰も欠けることなく歩み出した。

そして川の側まで歩き滝に近づく。

何人か呪文を唱え、棒を回すと……五芒星が浮かび、そこから巨大な氷の棘が現れ川へ刺さっていく。

バサッ__ザッザッ

水飛沫と凄まじい音が響く。

「うわぁっ 何じゃ何じゃ」
「退治屋だ! みんな逃げて!」

川から出て来たのはカッパたちだ。
男女の十人は退治屋。

「異形の存在を、焼き尽くせ」

逃げ惑うカッパの妖怪たちに向かって、放たれる炎の球。

「止めろーーーー!」

叫びと共に現れたのは狐火で、炎を相殺していく。

滝の上から声がして見上げると人が落ちて来た。

ドガァァンという轟音で。

その人間の姿を見て、妖怪も退治屋の男女も息を呑んだ。

子狐を担ぎながら、二十メートルはある距離を飛んで無傷で降り立ったからだ。

地面が掘れている。

「マキナさんありがと」

女性の姿をした、マキナという噂のロボットだと皆確信した。

「ほんとにロボット……」
「噂の掃除屋だ! 子狐のハク、竹の精霊タケ、桜の精霊ヨシノ」
「ロボットは一人だ、怯むな」

そう言って退治屋はまた氷の棘を刺していく。

「本当に懲りない、騒がしい、愚か」

マキナは眉間に皺を寄せ、氷の方へ走り拳を突き出し氷を破壊する。

タケは氷を防ぐため竹で盾を、ヨシノは植物の蔦を操り術者の足元を崩す。

「……懲りてはいないが学んではいるようじゃな」

多少学んだのか、結界や回復の術師がいて術者に近づけないヨシノ。

「__っ熱!」

ヨシノは油断した。

炎がヨシノの足元を囲んでおり、植物である桜の精霊は炎に弱い。

熱風で植物が枯れていく。

「ヨシノ!」

タケがヨシノを担いで炎から逃れた。

ヨシノの足元に投げた盾も植物のため燃えるが、その上を走って出たのだ。

「タケ、足が」
「少し燃えただけだ気にするな」

そんな二人に容赦なく降り注ぐ炎の球。

そこへ、マキナは背中の袋に入れていた棒に手をかけ抜いて振りかざす。

ボワっ__と音がすると炎の能力を相殺した。

「使えますね、これ。さすが鉄製です」

マキナが出したのは、フライパンだった。

「フライパン!? 氷も炎も効かないなんて……」
「やはり貴方たちの能力の元は、妖力。妖怪以外の物体には影響がない」

分析するマキナは、絶えず来る攻撃をアクロバットな動きとフライパンで相殺していく。

そして退治屋を素手で気絶させる。もちろん、怪我は避けられない。

マキナが地面を蹴ると、土が捲れる。

木々に飛び乗り、氷をフライパンで受け、人間の動きでは無い空中で動き方向まで変えて炎も受ける。

「くっ、このロボット……」

退治屋の身体に肘鉄や手刀を喰らわせ、次々と気絶させていく。

それも束の間、突然マキナの動きが止まった。

「マキナさん!」
「ハクは狐火に集中してください」

子狐の心配をよそに、手首に氷が巻き付き動きを封じる。

マキナ自身が物体のため害は無いが……その中に縄が仕込まれていた。

彼らの切り札はこれだ。

「__物体には物体をですか」

確かに普通の縄や鎖なら、人やロボットにも効果はある。

けれど、マキナは腕力で外せる。

ブチッ

「私を相手するなら、戦車が効果的ですよ」




その後は、力の差は歴然で結果マキナたちが退治屋を捕らえた。

「町に運ぶか。死んでなくても大怪我してる奴もいるし」

そう言ってタケが担架で運ぼうとすると、森の奥から人影。

「貴方たちが掃除屋の皆さん……良ければ、それは私たちが回収しましょう」
「人間……退治屋?」
「はい。過激派には困っていましてね。そちら回収しても宜しいですかねマキナさん?」

着物姿の退治屋を名乗るお爺さんは、被っていたハットを脱いで礼をした。

「リーダーに聞いてくれます?」
「おや、マキナさんかと」
「違います。そちらのハクです」
「そうでしたか、失礼致しました」

彼と子狐のハクは側から見ると、まるでお爺さんと子どものようだ。

「もう、妖怪を誰ふり構わず襲うのは止めてください」

と臆せず伝えるハクは成長している。

掃除屋の結成から数ヶ月の経験で、彼は強くなっていた。

「注意はするが、相容れぬ心。だからせめて君たちの支援をしよう」

同じ人間同士にも、込み入った事情があるらしい。

お互い協定を結ぶことにし、ひと段落ついた。

「ハクよ、今回で花代貯まったのではないか?」

子狐のハクはヨシノから報奨金を手渡され、花屋へ走る。

「はい! いってきます」

走りながら子狐は人間の子どもの姿へと変化していく。

僕は、マキナさんに助けてもらった。

それが掃除屋を一緒にするきっかけになったわけだけど……

その時、マキナさんが持っていた花束が散らしてしまった。

だから、自分で返したい。

そうして手に入れた花束を手に、また山へ戻ったハクだった。

「あ、あの時はありがとうございました。これ花束……」
「ありがとうハク。私が選ぶより君の方が綺麗な花束だ、きっと喜びます」

そう言って笑ったマキナはハクから見て、いつもより明るく見えた。

掃除屋のチームでマキナに付いていくと……そこはお墓だった。

「私の主の墓です。あの日は十七回忌で……」
「そうでしたか」

後ろ姿は、寂しそうだ。

「待っているんです。人間の魂は輪廻転生するらしいから」

その一言に胸を締め付けられた。

「……妖怪は転生とかないよ」

妖怪のように長く生きるロボットに……転生の話は残酷だ。

永遠に等しく待つなんて。

「そうですか……水、汲んで来ますね」

マキナさんは淡々とお墓の掃除をしに水を汲みに行く。

「ハクも思うか? 『それは人間同士の希望的概念で、ロボットは我らと似て永遠の命だから当てはまらない』と教えた方が良いのかと」

ヨシノは悲しそうにハクの肩を叩く。

「ヨシノ様……マキナさんのこと知ってるんですね」
「ああ、言いづらくて」
「けど言わないとマキナさん信じてるから、ずっと待っちゃうよ」

タケも腕を組んで悩み、ヨシノとハクはお墓の花束を眺めるだけ。

「皆さんどうしました?」

そこへマキナが掃除道具とバケツを持ち、帰ってきた。

慌てて何でもないと首を振る。

「マキナちゃーーーーん」

遠くから声と共に駆けてくるのは人間の子どもだった。

「リリアさん!? お母様はどうされたのですか」
「マキナちゃん、ひぃおばあちゃんのお墓参りでしょ。お母さんがお話あるって! だから来たの」

どうやら墓の主の親族らしい。

「マキナちゃん……いつか話をしなきゃと思っていたの。祖母から直接聞いてるのは私だから」

花束を手に近づく女性。

妖怪は普通の人間には見えないため、隠れる必要はないけどヨシノ様はタケと僕を茂みに引っ張った。

「アイカさん……」
「祖母から言葉を預かってるの。『私が死んだらマキナは自由に生きてほしい』って」

戸惑うマキナはバケツや道具を一旦墓の横へ置いた。

「しかし、人間は転生すると聞きました。なので待とうかと」
「人間は短い命だから、不確かな約束も来世への希望となるの……貴方は……」
「つまり、転生は無いのですね。そして私は家に居たら邪魔でしょうか?」

マキナの言葉に慌てたのはアイカと呼ばれた女性。

「違うわ! もう、バカね。私たちは家族よ。最近の貴方は楽しそうだから……この田舎で住みたいなら自由にしていいのよ」
「え、楽しそう?」
「心配だったの。段々笑顔が消えていくから……だから旅に出て貴方の家を沢山作ればいいのよ。心のままに生きて」

マキナは涙を流す彼女に近づき、その涙をハンカチで拭う。

「私の家は貴方の家でもあるのよ。親戚との揉め事は私が何とかするし、いつでも帰ってきても良いの、分かった?」
「は、はい。ありがとうございます。旅に出てみます」

マキナもリリアを抱っこしたアイカも微笑みを交わした。

「ふふ、500年先までマキナちゃんのこと伝えておくから、安心してね」
「バカなんですか、無謀ですよ」
「バカじゃないですー! あっ、それから帰ってくる時の手土産は美味しい物よろしくね」

慣れているのか、二人は軽口を叩き合い明るい空気感。

「血は争えないですね、厚かましいところが似ています。旅して家を沢山作ってお土産も買って帰ります」
「うん。いってらっしゃいマキナちゃん」
「いってきます」

スッキリしたのか、親子はマキナと一緒に掃除をしてから帰った。

見送ったマキナは……

初めて見る爽やかな笑顔で、掃除屋チームを振り返った。

「というわけで、よろしくお願いしますね皆さん」

静かに見守っていたハクもタケもヨシノも元気よく「喜んで!」と返事した。

こうして、掃除屋チームは過激派が無くなるまで対抗しつづけた。

三つの種族の均衡を守るために__


【門出の花】【ロボットと妖怪】完


いかがでしょうか、実は【ロボットと妖怪】の後編です。

前後編でありながら単体で読めるよう編集しました。

そしてお気づきの方もいらっしゃると思いますが、作中のマキナは【おかえりの道】の主人公マキナのその後です。

ちなみに、タイトルの上の切れている数字は16進数で日本語に直すことが出来ます。

前編の表紙に切れている部分があるので、気になる方は合わせて調べて見てくださいね!

少しでも面白い、アリだと思って頂けたら良いね!よろしくお願いします✨


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