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【場ヅレポ#1】左脳と右脳を揺さぶる美術展

みなさん、こんにちは。
場ヅクリエイターのましけそ(@mashikeso)です。

この記事は、私が最近触れた「場」に対しての主観的な考察記事です。根気が続けば、【場ヅレポ】シリーズとして自分の備忘録として蓄積していければなと思います。

今回考察してみるのは、サントリー美術館さんとデザイン会社のnendoさん主催の「information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美」展
です。2019年4月27日(土)〜6月12日(日)の間に、六本木のサントリー美術館で開催された本展示会は、日本美術品27点の展示会です。

美術展の常識を覆す展示設計

本展は控えめに言って、従来の展示会での展示手法の常識を根底から覆す革新的な取り組みでした。
タイトルの通り、体験者は同じ美術作品を
・informationを通した作品鑑賞
・inspirationを通した作品鑑賞
の2つの楽しみ方ができる空間構成でした。
それを便宜上、よりわかりやすく「左脳と右脳でたのしむ」とタイトル付けされています。(以下、館内マップ)

工法や歴史的価値、作り手の想いを情報として知ることで美術作品に対してより感情移入することを、「左脳的感動」と定義していました。

他方、情報の一切を排除し、展示の仕方・魅せ方だけでその美術作品の素晴らしさを切り取り、体験者自身の感性にしたがって心揺さぶられることを、「右脳的感動」と定義していました。

そして、同一の美術作品に対して、その2つの感動を楽しんでもらうために、それぞれ異なる鑑賞空間を実現したのが今回の展示会になります。

*上イラストは、サントリー美術館公式HP参照

その手法も様々で、美術品に照明を当てるだけの展示もあれば、作品の影だけを見せてinspirationを刺激する展示、現代風にマッピングや要素分解される展示など。


従来より、美術展示に関して、
・情報を知ることで楽しんでもらう
・感性に従って楽しんでもらう
という2つの考え方は存在していました。
この2つは、全か無かではなく、その都度、展示会の趣旨に合わせて、
2つの割合を線引きしながら展示構成してきました。

その2つの視点でたのしむこと自体は特別新しいことではなかったのですが、常識を覆す、革新的であったのは、1つの展示に対して2つの鑑賞方法を明確に提案したことです。

前もって作品の知識のない人が、情報を読まずに作品を感じ取るのは感情移入しづらく、逆に情報ばかりだとそれはそれで気持ちが離れてしまいます。

だからこそ、「情報を知ること」と「感性に従うこと」は切り離されることなく、1つの鑑賞方法の中で、来場者の理解度を想定してそれぞれに傾斜をかけて、その2つを共存して設計するのが一般的でした。
(その他にも、滞留や動線、コストなども考慮して)

その常識を疑い、
・情報を知ることでたのしむための最適空間
・感性だけでたのしむための最適空間
2つを100%つくり分けることは大きなチャレンジでした。

結果、かなりの混雑の偏りや逆流が運営的な問題として発生したものの、美術作品を自分に取り込もうとする体験と、そのストーリーを知ろうとする体験、それぞれ全く違う2つの体験を提供し、何度も何度も作品を噛み締めてしまいました。

「均衡を崩す」という解決

本展示会の主催者でもある、nendoという会社は私から紹介する必要のないくらいの世界でも有名なデザインオフィスです。その代表である佐藤オオキさんは2013年3月号の日経デザインという雑誌でこんなことをお話しされていました。

nendoが行う手法に、『均衡』と呼んでいるものがあります。『崩すことで均衡させる』方法です。
崩すべき『均衡』とは、『凝り固まった既成概念』とも言い換えられます。

これまで美術展示の世界で疑われることのなかった、「1つの作品に対して1つの鑑賞方法」という展示手法を疑い、「1つの作品に対して2つの鑑賞方法」という崩しを成立される。まさに本展は私にとってそのような展示手法でした。

そのような「常識を疑う」という行為は、よく語られ、その度にふむふむと思うのですが、ここまで常識的に考えられていた「1つのものを1回しか見ない」という体験自体を疑い、別の均衡をデザインされたのは本当にやられたなと思いました。(かなり上から目線ですみません、、笑)

佐藤オオキさんやnendoさんの他の作品もそうですが、問いのないところに問いをつくることにかけては非常に卓越した哲学をお持ちだなと感じます。

また、私の勉強不足で、このような展示手法がどこかですでに展開されているのかもしれませんが、この手法を<左脳と右脳>や<informationとinspiration>と整理され、タイトルだけが先行してもおおよその展示思想がイメージできるというところまでの、パッケージングは秀逸でした。

「場ヅ」を生み出すワンポイント

話題になる場づくり=「場ヅ」と、思いつきでいま命名しましたが、本展にも組み込まれていました。

中ほどにあった偏光を利用した傘影のアート作品は、全体構成の中では不要に感じましたが、インスタ映えによるシェア促進や、作品体験のわかりやすさのために現代のアート展には不可欠な作品であったことは間違いありません。

まだまだ自分に見えていない世界があるのだなと学びの多い展示会でした。

場ヅクリエイティブディレクターへの道はまだまだ険しいと思う、今日この頃でした。

ましけそ


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