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『旧友再会』

これぞ重松清。

『旧友再会』重松清


あの人にいま会えたら、何を伝えますか?子育て、離婚、定年、介護、家族、友達。人生には、どしゃぶりもあれば晴れ間もある。重松清が届ける5つのサプリメント。(Amazonより)

この前に読んだのが『木曜日の子ども』で、ちょっと慣れた作者のイメージと違かったから、これはいい意味でいつもの作風を感じられた。

大学2年生から読書にハマって12年、実家にたくさんあったのもあって作者の物語は特に多く触れてきたけど、受け取る印象に違いが出てきていることに気づいた。

はじめは家族の「こども」側の気持ちで、中学や小学校時代の苦味を含んだ思いに感じるものがあったけど、三十路を過ぎた今、今度は「おとな」側の気持ちで、古臭いと捉えられるになってしまった考え、こどもたちには理解してもらえない価値観に共感を抱くようになっていた。

作者も作風も同じでも、受け手側が年取ることによって、物語の印象や汲み取り方に違いが出てくるっていうのも、読書の楽しさのひとつだよなって改めて思わせてくれた。

特に『どしゃぶり』について、中学で野球部だった自身としては、体罰や無茶な練習の風習は過ぎ去った時代ではあったけど、「楽しむ」ためより「勝つため」に日々練習をしていたつもりだったから、お父さんたちの考え方に感情移入してしまうし、大事にしていた軸みたいなものが子供たちや年の離れた奥さんに伝わっていないもどかしさがなんとも言えない。

それでも、理解されず時代遅れと一括りされそうな寸前で伝えなきゃいけないことをしっかり伝えているシーンが良かった。

「ちゃんと悔しがることができないと、いつかおとなになってから後悔するぞ、だから負けたときぐらい、しっかり悔しがれ」

楽しさを最大限分かち合うことももちろん大切だけれども、他人と共有しにくい、するのが恥ずかしい悔しさを、自身でなんとか咀嚼して澱を重ねながらも進んでいく強さや粘りも大事だという、成長するにつれ誰もが経験する苦味を乗り越えるためにしっかり伝えることも大人の役割だよなって思った。

「これぞ重松清」っていう短編集だった。

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