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『ママ』神津凛子

デビュー作『スイート・マイホーム』で慄かされまくった作者の二作目。

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『ママ』神津凛子

 

序盤の、貧しく悩みもありながらも親子関係や日常生活のあたたかさが眩しいが、全てが嵐の予兆のように感じて決して油断がならない。

徐々に周囲の人とわかり合い支え合っていくが、どこか疑心暗鬼に読んでしまい、常に曇っていて薄く不穏な空気が流れているこの感じが「オゾミス」の醍醐味。

物語の中で最大の幸福が訪れてきそうな予感がした誕生日。慎ましくも幸せな描写が続くけど、その後に待っているであろう悲しさがわかるから痛ましいし、ある意味ページをめくるのをためらってしまう。

そして転落からのどん底。それ以降は引っかかりや伏線が多くあるわけではなく、ただひたすら堕ちていく地獄。自身に身に覚えがないところで、理不尽ながらも誰かの不幸の引き金になってしまい恨まれ復讐されるっていうのはいたたまれないし恐ろしい。

そこからの描写は前作のような得体の知れないおぞましさというよりは、実在する恐怖と肉体的な痛みのほうが多かったけど、人は何かを守るためには、容易くタガが外れて一種の防衛・闘争本能が剥き出しになるのだなと感じた。

殆どが悲しい出来事で普通以上の幸せなんて描かれていないけど、最後に一筋の光を感じられる終わり方が前作とは異なり救いがあった。

作者の次回作はどちらに転ぶのかも楽しみ。

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