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『両手にトカレフ』

小説も間違いなかった。

『両手にトカレフ』 ブレイディみかこ

西加奈子氏、推薦! 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者が14歳の少女の「世界」を描く、心揺さぶる長編小説。 この物語は、かき消されてきた小さな声に力を与えている。 その声に私たちが耳を澄ますことから、全ては始まるのだ。 ――西加奈子氏 ◎ブレイディみかこ氏からのメッセージ 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』には出てこないティーンたちがいました。ノンフィクションの形では書けなかったからです。あの子たちを見えない存在にしていいのかというしこりがいつまでも心に残りました。こうしてある少女の物語が生まれたのです。 ◎STORY 「ここではない世界」は、 今この場所から始まっていく――。 寒い冬の朝、14歳のミアは、短くなった制服のスカートを穿き、図書館の前に立っていた。そこで出合ったのは、カネコフミコの自伝。フミコは「別の世界」を見ることができる稀有な人だったという。本を夢中で読み進めるうち、ミアは同級生の誰よりもフミコが近くに感じられた。一方、学校では自分の重い現実を誰にも話してはいけないと思っていた。けれど、同級生のウィルにラップのリリックを書いてほしいと頼まれたことで、彼女の「世界」は少しずつ変わり始める――。(Amazonより)


ここ数年トップレベルで信頼している著者が、エッセイでは描かなかったことを表現した初の小説、帯の推薦文が西加奈子と長濱ねる、という個人的現代最高レベルの布陣。否が応でも期待値上がってしまったけど大満足だった。

一冊の本を通して、現代のイギリスと明治大正期の日本で似たような境遇の少女が共振していく。そこには不思議な体験や青春時代の青さなんかも含まれていて楽しませてくれるけど、この作品は小説の形を通して現代社会の事実を表しているということを忘れてはいけない。赤裸々に記すことが醍醐味のエッセイでは書ききれない、描けなかったほどの、つくりものよりも壮絶な事実が広い世界には紛れもなく広がっているということ。身近で怒ったり太字で記されたりしないけれども、確かに存在している小さな出来事を忘れずに思い出すこと、想像することの大切さを教えてくれる。
個人的に印象だったのが、最終的な救いや幸せを家族の繋がりや絆に求めるのではなく、敵のようにも思えた周りの支援者たちが諦めずに手を差し伸べてくれるっていうところが更に現実味を感じさせる場面だった。
近年よく耳にするヤングケアラーという存在や生活保護など、日本にいても無視できない現実が綴られていて、その中で自分がしっかりしなきゃと物わかりよく気丈に自律する存在に向き合っている場面も、弱者救済という簡単な構造では言い表せない関係性を知ることができた。
「私たちはまだあなたのことを全然助けていない」

読み終わった後も何か考えずにはいられない満足感は相変わらずで、個人的に金子文子の生涯にもすごく興味を持つきっかけとなった一冊だった。


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