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ブラックダイヤモンドと、人の言葉を捨てたこと

「こちらの商品は珍しいんですけど、お客様にすごく似合うと思います!」そう言われて両手の指先の小さな輝きを2つ見比べたけど、もう片方はどんなんだったっけ。わたしがブラックダイヤモンドをあしらった指輪を買った時の話だ。

褒めてくれたのも店員さんのリップサービスだったかもしれない。数年前に指輪を探していたときに行ってみたお店でのことだ。色々と面白いデザインの指輪はあって、確か時間があまりなかったから店員さんに手伝ってもらおうと声をかけたのだった。わたしが気になっているものをいくつか見せると、店員さんが奥から出してきてくれたのは、黒い宝石がついた指輪。

「これ、ブラックダイヤモンドっていうんですけど〜…」「えっダイヤモンドってブラックとかあるんですか!」「そうなんですよ〜、透明のダイヤモンドと違って珍しくてかっこいいと思います!」

「珍しくてかっこいい」とかそういう言葉にわかりやすく弱いわたしはその指輪をすぐに買った。後から調べると、ダイヤモンドには様々な色があって、ブラックは透明のものより硬いそうだ。だから結婚指輪にブラックダイヤモンドをあしらう人たちもいるらしい。

そしてパワーストーン的な意味合いがめちゃくちゃすごかった。まず名前の由来がギリシア語の adamas (征服できない)からきている。かっこいい。キーワードを見てまたごくりと息を飲んだ。

全、征服、吸収、覆う、パワー、全要素、エネルギー、自信、確信、革新、強靭、強大、宇宙、消滅、誕生、ブラックホール、闇、光、ベール、超越
引用元

その指輪と、あともうひとつ指輪を自分のお守りにした。すぐに気分がころころ変わり前後もわからなくなり、泣いたり死にたくなったりするわたしの手が、また自分を傷つけることがないように。やりたいことを精一杯やれるように。イラストレーターをしていたときは仕事道具と同じくらいに思っていた。そしてその指輪たちは今もわたしの指と一緒にいる。

今日描いた抽象画は今までで一番色が激しくなったと思う。描きながら言葉を浮かべたり、デザイン的にどうかな〜って考えたり、ただ手を動かして失敗したものがおもしろかったからそのまま使ったりする。

ただそういうときに誰かの言葉が頭をかすめることは前よりずいぶん減った。好きなアーティストや偉人の言葉がわたしは大好きで、本やWebでずいぶん読んだし、つらいときの励みにしたこともたくさんあった。それでも日々、自分の価値観やものを見る角度、外に出てくるものは変わってくる。

どんな偉人であろうと誰かの言葉に頼っているうちは一人前になれないかもしれない

そんなことをふと思った瞬間があり、名言を見直すことがぐっと減った。そして、ついにさっきスマホの中から自分の好きな偉人名言集を消した。でも大好きな言葉たちは、わたしの脳細胞にくっきり刻まれているから大丈夫だ。

わたしを支えてくれたという意味では、偉人の言葉たちは、ブラックダイヤモンドの指輪を含む自分の指輪みたいだなとも思う。指輪もたびたびつける場所を変えたりはしている。それでもしっくりと手になじんでいて、いつかもし壊れてしまうことでもなければ、ずっと一緒に過ごしたいと思う。

もしいつか、わたしが日々どんなことを考えているか、そんなことが価値を持つようになったら、このポケットサイズのモレスキンは必ず見せる1冊になるだろうと思う。

Artists are simple people with a complex mind. 自分にとっても本当にそうで、わたしは単純だけどすごくめんどくさい人間だ。周囲の気苦労は計り知れない。

ノートのページ数が残り少なくなったので、次も同じタイプのモレスキンを買ってあるけれど、なんだか名残惜しくてなかなか残りのページが減らない。ガンガン減っていた時期もあるのに、不思議なもので。

それでも新しいノートになったら、表紙に何をしようか。

ブラックダイヤモンドにかけて真っ黒も美しい。自分の言葉を何か引っ張ってきてもいいかもしれない。自分がいろんな場面で思ってノートに書きつけてきたことは、誰に頼まれたわけでもないオートクチュール(高級なオーダーメイド服)だ。ファッションではないからこう表現するのも違うのだろうけれど、自分そのものがアートにならないと、なんてやり方のわからないことを毎日考えている。

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