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広い意味での素粒子理論

前回は狭い意味での方を書いて疲れてしまったけど、今回こそは広い意味での素粒子理論について説明したいと思う。

まず先に言っときたいのだけど、ぶっちゃけこれ、
人に依るし、同じ人でも時期によって認識が異なる。

また、他の分野の範囲とオーバーラップすることも多い。学問は常に進化するので、その範囲も生き物みたいなのだ。

なので、これはあくまで私個人の認識と思って読んでほしい。他の人にどこまでが素粒子論だと思うか聞いてみるのも面白いかも。同じように、どこまでが物理と思うかとか、どこまでが科学と思うか聞いてみるのも面白いかも。

広い意味での素粒子理論とは

それでは私にとっての広い意味での素粒子論、言っちゃいます!ででーーん!(何)

狭い意味での素粒子理論の過程で生まれたもの自身を対象とする研究、およびそれらと狭い意味での素粒子理論のアイディアやテクニックを他分野に応用する研究

私の認識はこんな感じ。でもこれだけだとわけわかんないと思うのでいくつかの例を挙げていきます。

例1. 場の量子論そのものの研究
まずは分かりやすいものから。素粒子物理学の1つの到達点である標準模型は、場の量子論という枠組みの中の特定の模型です。さらに小さなスケールでは、物理法則がどのようになっているよく分かっていませんが、少なくともある程度のスケールまでは場の量子論の枠組みで理解できると期待されています。(標準模型とはちがう模型かもしれないけど)

しかしこの場の量子論、やばいやつで、
 ・"現実"を記述するかもしれない場の量子論の模型は、場の量子論全体の中のほんの一握り(※)。
 ・"現実"を記述するかもしれない場の量子論は大抵すごい複雑
 ・というか大抵の場の量子論難しすぎて解けない
 ・解けないどころか特殊なクラス以外は数学的にちゃんとした定義すら(まだ?)ない
みたいな感じでとにかくやばい(語彙力)。

というわけで、場の量子論がやばすぎるので、”現実”とのつながりは一旦忘れても良いからとにかく場の量子論自体の理解を進めようっていう感じの研究が沢山ある。ある特定の現象にフォーカスして普遍的な性質を探ろうとするものとか、場の量子論を解析するテクニックを発展させるものとか、解ける模型を増やすとか色々ある。

超対称ゲージ理論の研究とか共形場理論の研究の中には、今では数理物理の一分野と見なせるトピックもあるけど、そういったものも場の量子論そのものの研究の一部であり、広い意味での素粒子論の中に入ってると思う。

例2. カラビヤウ多様体関連の研究
(通常の)超弦理論は10次元時空で定義されるけど、我々の身の回りは4次元時空っぽいので、10次元の内の6次元分を小さく丸めれば良くない?って話がある(コンパクト化という)。このコンパクト化でよく考えられてきた多様体(空間)のクラスが、6次元(=複素3次元)のカラビ・ヤウ多様体ってやつ。

それに関連して、現実との関係は一旦置いといてカラビ・ヤウ多様体上の弦理論を調べてみようみたいな話もあったりして、位相的弦理論・幾何学的不変量・ミラー対称性・超対称ゲージ理論との関係とか、色々な研究が生まれましたとさ。

例3. ホログラフィーの他分野への応用(物性とか原子核とか)
ホログラフィーという重力の研究の過程で出てきた予想の帰結の一部で、一部の強結合の場の量子論と古典重力が等価っていう話があるので、それを仮定すると一部の強結合の場の量子論の物理量が計算できたりする。その場の量子論が物性とか原子核みたいな他分野で扱われるような場の量子論だったら、素粒子論で出てきたアイディアの他分野への応用といえるだろう。

以上、例を3つ出してみた。RPGに例えると、元々魔王を倒す旅に出てたけど、途中のダンジョンとかを探索している感じですかね。でもそこでたまに魔王を倒せそうな武器が見つかってまた魔王倒しに行くかってなるみたいに、時々広い意味での素粒子論の研究が、長期的に狭い意味での素粒子理論の研究に役に立つときがあるかも。あとは元々の世界の魔王を倒す方向には向かってないけど、別の世界の魔王を倒す方向に向かってることもあるかも。自分自身、狭い意味での素粒子論もすきだけど、広い意味での素粒子論の知的遊戯倶楽部的なノリもすき。インド目指してたけどアメリカ見つけちゃったみたいな研究があってもいいじゃないか。オメガとか神竜も出てくるかもしれないし(何の話?)。じゃあの。


※一握りといっても、実は”現実”を記述するかもしれない場の量子論の模型も現時点で無限にありそうなので、無限vs無限だ。

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