トランプ「パリ協定離脱」の基礎知識

アメリカのトランプ大統領が、地球温暖化対策の国際条約「パリ協定」からの離脱を表明しました。これにはどんな影響があるのでしょうか。大統領の思惑とは。

そのまえにまず、パリ協定とは何か、日本ではとりわけ知られている京都議定書との違いにも触れながら説明していきたいと思います。

1 そもそもパリ協定とは
2 すぐには離脱できないパリ協定
3 トランプ大統領の「焦り」と「ウルトラC」

1 そもそもパリ協定とは

パリ協定は地球温暖化を防止するため、2015年12月に締結、2016年11月に発効された国際協定です。

このパリ協定の内容をかいつまんで説明すると、

(1)地球の平均気温上昇を2℃未満に、できれば1.5℃以下に抑えることを目標にする

(2)この目標に向けて、各国が自主的に「貢献(貢献目標)」を策定、国際的な審査を受けて目標達成のための措置を実施する

というものです。

地球温暖化防止に向けた対策としては、すでに気候変動枠組条約(1992年採択)、京都議定書(1997年採択)というものがあります。

初めて具体的な防止対策を決めた京都議定書は、CO2(二酸化炭素)などの削減量それ自体を減らすことにし、その具体的な削減量も国・地域別に決定、各国に義務を課すという、やや厳しい内容のものでした。

また、途上国には削減義務を負わせないことになっていたため、これが不公平ともいわれていました。途上国といっても、中国のように経済成長を遂げCO2排出量が世界一位になったような国もあるからです。

そこですべての国で温暖化対策が行えるよう、パリ協定では、国際目標を削減量ではなく平均気温の抑制という緩やかなものに切り替えたうえで、途上国にもそれに向けて努力する義務を課すことにして、京都議定書にあった不公平感をなくしたのです。

これによって効果は薄くなるかもしれないけど、全世界が足並みをそろえて温暖化対策できる…と期待されていました。しかし、アメリカのトランプ大統領はこのパリ協定からの離脱を宣言したのです。なぜなのでしょう。

2 すぐには離脱できないパリ協定

選挙戦のときからパリ協定の離脱を訴えていたトランプ大統領からすると、今回の離脱表明は選挙公約を実施した結果にすぎない、ということになるでしょう。

温暖化対策のためにCO2を削減することで経済に悪影響が出るという議論はアメリカだけでなくわが国にもあります。

石油・石炭などのCO2が出るエネルギーを使った発電を少なくすると、電気代が上がって企業の生産コストが悪化してしまう…などというものです。

そしてトランプ大統領は、石炭・石油などのエネルギー業界、そのエネルギーを大量に消費する鉄鋼業を、強力な支持基盤としています。

CO2削減は彼らにとって死活問題。そんな彼らの要望をかなえるパリ協定離脱は、大統領にとって移民制限とならぶ優先的な選挙公約だったのです。

ただ、パリ協定の規定上、離脱通告は発効から3年後、離脱そのものはさらにその1年後にならないとできないことになっています。

つまり、アメリカはいま離脱を表明しても、早くても2019年11月4日にならなければ離脱表明できず、そして最短での離脱は2020年11月3日になってしまうのです。

そう考えると、なぜこの段階で離脱を表明する必要があるのか、これにも疑問が沸いてくるところです。今回の離脱表明の背景、もう少し考えていきましょう。

3 トランプ大統領の「焦り」と「ウルトラC」

トランプ大統領の支持率は、移民制限など大胆な政策を矢継ぎ早に打ち出すわりには、あまり上がっていません。歴代大統領とくらべてかなり悪いわけではありませんが、これだけやってのことですから、伸びしろもない、という感じです。

しかもロシアへの情報漏えい疑惑で「大統領弾劾」までささやかれる状態。これを打開するため、あえて離脱表明をしてみた、というところがありそうです。

とはいえ、アメリカ国民には離脱反対派も多くいます。しかも、政権の内部にも離脱反対派はいたのです。

特に外務大臣に当たるティラーソン国務長官、さらには大統領の娘・イバンカ大統領補佐官は離脱反対派でした。それを押し切る形での離脱表明だったのです。

離脱反対派は、パリ協定のもとでも厳しくない目標を作ることはできると考えていました。それなら選挙公約も守ったとはいえずとも尊重したと言い訳はできますし、大統領も当初はその方向で考えていたといいます。

しかしそこで、バノン上級顧問ら離脱賛成派による、離脱反対派への「巻き返しウルトラC」が起こりました。それは「訴訟リスク」の主張だったのです。

離脱賛成派は、離脱反対派が唱える「厳しくない目標」の作成は、「環境団体から『条約違反』として裁判所に訴えられる可能性がある」と、大統領に主張するようになったのです。

ただでさえ、移民制限の大統領令が数々の無効訴訟を引き起こし、裁判所で連敗続きの大統領。さらなる訴訟リスクは、裁判に弱い大統領のレッテルを貼られ、支持率向上をさらに妨げかねません。

そのようなことから、大統領は選挙公約にも沿い、支持者にもあからさまなアピールができる離脱表明に傾いた、ということになったようです。

しかしこれが今後、政権内でどのような「しこり」になってしまうのでしょうか。引き続き注目しておきたいところです。

[まとめ]アメリカ離脱の影響は少ない?

CO2排出で世界2位のアメリカが離脱することは、たしかに地球温暖化対策としては痛手です。

しかし、それほどの効果はなさそう、という声も小さくありません。世界はもう、自然エネルギーの普及が進んでいます。太陽光・風力など、自然エネルギーの発電量は年々増加の一途で、自然エネルギー自体が世界の「成長産業」になっています。

結局、アメリカで成長産業は伸びない、国内・国際世論からは批判される、政権内の対立は深刻化する、こんな「逆効果」だけを生んでしまうかもしれません。

公約達成の離脱表明を行い「ドヤ顔」のトランプ大統領ですが、今後も綱渡りの政権運営が続くことには変わりなさそうです。

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