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リーダーを直接選ぶか、そうでないか、どちらが優れている?(日本の政治制度、その1)

議院内閣制と大統領制の違いとは

民主主義国家の政治制度を大きく分けると、「議院内閣制」と「大統領制」に分けることができます。

国のリーダーをどうやって決めるか

議院内閣制の場合、国民が選挙するのは議会の議員だけです。首相(内閣総理大臣)らを直接国民が選挙することはなく、議会が何らかの形で選出することがほとんどです。国民が選んだ議員たちに、国のリーダーを決めてもらう形になるため、安定感のある政治を望むことができます。ただ、議会や政党とのしがらみも強くなります。

大統領制の場合、国民は議会だけでなく大統領も選挙することができます。そのため、議会に味方となる勢力がなくても、国民からの支持があれば、大統領として当選することが可能になります。議会や政党と関係なく、その時の優れた人が国民から選ばれる反面、単なる人気投票になってしまい、能力に乏しい人がリーダーになる危険性も強くなります。

内閣は「国民の代表の代表」

もう少し、議院内閣制を掘り下げてみていきます。ここでは、典型的な例について、お話します(国によって、細かいところは、いろいろと異なっています)。

国民から選ばれた議員たちからなる議会は、基本的には、同じ議員たちのなかから首相や閣僚(大臣)を選び、彼らに国の行政の仕事を信じて任せます。これを「信任」といいます。国会議員が「国民の代表」だとしたら、内閣は彼らの代表、つまり「国民の代表の代表」になるわけですね。

議会から「信じて任され」た人々が内閣を作る

そのため、首相をはじめ内閣のメンバーと議会との関係は、近くなります。多くの場合、議会で最も多い数の議員を抱える政党の党首が、首相に選出されます。

そのため、首相の政党が与党、そうでない政党が野党、と、はっきりする形になります。選挙の際は、投票するにあたっての大きな基準として、これまでの首相や内閣のやってきたことが良かったのか悪かったのかということになることが多くなります。

議院内閣制では、政治の安定性の回復が早いものの……

ただ、めったにないことなのですが、議会が内閣に「任せられない!内閣辞めろ!」と決議することができます。これを「不信任決議」といいます

例えば、もし与党が分裂して、首相支持派が少数派になったりすると、こうした決議が議会で可決される可能性があります。過去の日本でも、こういったことはありました。

不信任を突きつけられた内閣の選択肢は2つ

不信任、つまり辞めろ、ということを、もともと信任されていた議会から突きつけられた内閣には、2つの選択肢が与えられます。

(1)不信任を受け入れて、内閣総辞職を行う
(2)不信任を受け入れずに、議会を解散して選挙をし直す

内閣が(1)を選択した場合、議会の多数派=内閣のメンバーという状態が戻ることになります。(2)を選択した場合も、国民が選んだ議員が新しい内閣を選ぶことになり(もとの内閣が選び直される可能性もあります)、どちらの選択肢を選んだとしても、政治の安定性は戻ります。

政治の安定性が早期に戻るということ、これが、大統領制だとうまくいかないということを、ここで覚えておいてほしいと思います。

一方、内閣はいつでも議会を解散し、選挙し直すこともできます(そうでない国もあることはあります)。信任される期間を長くしたかったり、もっと信任の度合いを増したい場合、選挙でさらに支持派の議員を増やすことを図るわけです。

しかしこれでは、じっくり法案や政策を審議すべきときも、内閣の思惑で行われる選挙によって中断せざるをえない状況にもなりかねません。また、大した争点もなく、内閣が選挙で勝ちたい、というためだけに選挙が行われることもしばしばあったりします。こうしたことは、国民の政治への無関心を招きかねないことでもあります。

大統領制=立法をつかさどる代表と、行政を担当する代表

大統領制では、法律や予算を作るなど立法をつかさどるために国民から選ばれた代表が議会、行政を担当するために国民から選ばれた代表が大統領と、はっきりした区別がされています。

議会と大統領の役割は明確に区別される

国防をふくめた行政については、大統領の専権事項になるため、大統領の権限は、いっけん強くみえます。

しかし、予算作成をふくめた立法行為はあくまで議会の仕事であるため、それらに対して大統領があれこれ口出しをすることは難しくなります。それどころか、大統領が議会に出向いて、議員と討論をたたかわせるようなことは、極めてまれか、皆無であることが普通です。法律や予算の作成は、議会の専権事項だからです。

また、議会と大統領を国民が別々に選ぶため、議会の多数派の政党と、大統領の所属政党が異なることもしばしばです。そうなると、議会と大統領の対立の深まりから、重要なことが決められなくなってしまい、政治の機能不全が起こってしまうことにもなりかねません

しかし、大統領制には[不信任・議会解散]という制度はないので、こうした機能不全からくる政治の停滞は、次の選挙まで収まらない、ということになってしまいます。下手したら数年、こうした状態が続いてしまうことになります。これが、議院内閣制と比べた大統領制の大きな問題点です。

大統領制だと、政治の混乱が起こりやすい、というのは意外かもしれませんね。しかしこれを理解したうえでアメリカ政治などを見ると、わかりやすくなると思います。

一方で、大統領と議会の関係が良好であるならば、一定の期間、選挙もなく、安定した政権運営が可能になることもあります。このイメージが強いと、大統領制=安定、と思ってしまうかもしれません。

政治の混乱が長期化することも

いずれにせよ、議会にしっかりした権限が与えられた国において(つまり健全な民主主義国家において)は、大統領は自らの権限についてはフリーハンドともいえる大きな権限を持っているものの、法律や予算を作ったりすることについては、地道に議会に味方を作り、協力関係を維持する努力をしなければ、考える政策を実現することは難しくなります。

内閣がある大統領制の国、大統領がいるけど議院内閣制の国

大統領制だけど、内閣がある国も多いです。こうした制度をよく「半大統領制」といいます。つまり、大統領と、内閣の長である首相の両方がいるのですね。

大統領も内閣もいる=「半大統領制」

こうした大統領と内閣の関係は、国によって異なります。内閣が完全に大統領の手下として働く国(韓国)もあれば、場合によって大統領と対立することが可能な内閣を持つ国(フランス)もあります。

また、大統領がいても議院内閣制の国があります(ドイツ・イタリア)。

この場合、大統領は形だけの権限を持つ、イギリスの国王や日本の天皇に似た存在になります。実際の政治は、議会と、議会が選んだ内閣によって行われています。

「首脳」といったばあい、こういう国では大統領ではなく首相を指すことが普通です。

また、大統領を国民が直接選挙することはありません。議会や、特別な国家会議で選ばれることがほとんどです。

なんでこんなややこしいことを、と思うかもしれませんが、これによって首相・内閣は政治に専念できる(儀礼的なことは大統領にしてもらう)というのは、メリットではあります。

政治制度の違いは優劣よりも国民性やその国の歴史による

議院内閣制と大統領制に決定的な優劣はない

いずれにせよ、民主主義国家の政治制度の違いに、大きな優劣はないと考えるべきです。

むしろ、それぞれにある一長一短を理解すべきなのです。よく「日本は政治制度を変えれば政治が良くなる」という主張を見かけますが、それが果たして、日本の国民性や歴史にそぐうものなのか、慎重に検討する必要があるように思います。

こうしたことを踏まえて、次回から日本の政治制度について詳しくみていこうと思います。

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