タイでのエピソード・その6
ーその5の続きー
翌朝目が覚めると、ホコリと蜘蛛の巣まみれの天井が目に入った。
...昨日までの出来事が、夢じゃ無い事を理解した。
エアコンを付けずに眠るようにしてみた。疲れていたからか、ぐっすりと眠る事は出来た。
ただ、暑い...カーテンもビニール製か...?申し訳なさそうに付いているだけ。基本、使う事は無いだろう。
ベランダに出て見る。ところどころ開いた壁の穴から、信じられないほどの小さなアリが生態系を維持していた。
こいつらは「火の赤アリ」と呼ばれていて、日本のアリに比べても遥かに小さい。...クセに、刺されるとむちゃくちゃ痛い。火の赤アリと呼ばれる所以である。
これが家をトコトコと歩く恐怖が想像出来るだろうか。タイ...と言うか、東南アジアのロークラス・アパートメントでは、いかにアリと上手く付き合っていくかがカギだ。言い過ぎでは無い。マジで。
アリはほぼ例外なく毒針を持つ。
信じられないと思う人も多いかもしれないが、世界規模で見れば、毒を持っていないアリなど、日本くらいにしかいない。日本のアリも尾に針を持つが、毒自体が退化している。
オーストラリアのアリなど、中には刺されると普通に死に至るほどの強い毒を持つアリもいる。アリはハチの近種なのだ。
...生物専攻だった私は、改めてそんな事を思い出しつつ、こいつらを全力で退治する事を誓った。
...そうこうしているうち、S氏が迎えにきてくれた。
「おはよう。眠れたかい?」
「はい、疲れていたので...。でも、暑いですね。あと、ベランダに赤いアリが無数に歩いてて...」
「うんうん、当たり前。」
...当たり前、か...。逞しいね。
今日もHは一緒についてきてくれた。何と言うか...こいつの「ひょうひょうとした調子の良さ」は、漫画「じゃじゃ馬グルーミンUP!」のウメさんを彷彿とさせる。
当たり障りなく、差別もしない。兎に角口が悪く、私以上に人をバカにした様な悪口を連発するが、何故か熱い友情を感じさせる不思議な魅力を持つ。一瞬で「こいつとは、上手くやっていける気がする」と思わせる力があった。
「さて、今日は買い出しに行くよ。タイといえば、ビッグC。」
「ビッグ...C?」
「そう。行きましょう。」
我々が向かったのは、タイでお馴染みの大手スーパー、ビッグC。
デカすぎる...!!
田舎から来た私としては、もはや一つの街の様に感じた。
食料品から家具家電、フードコートまで兎に角何でもあり。困ったらここ、って感じの場所。
「何買うか決めた?」
S氏の質問に対し、私は「そうですね...」と返答を濁らせた。
「暑いけど、冬の朝とか寒かったりするから、毛布一枚あった方が良いよ。」
「あ、そうなんですね」
...この様にアドバイスを貰いながら、生活必需品に手を出していく。兎に角、カネが無い。必要最低限にしておかないと。
タイの物価は驚くほど安かった。どれもこれも、日本に比べれば半分〜三分の一程度といった感覚。確かに、これなら節制すれば何とかなりそうだ。
「時計とか、いる?」
そのS氏の質問に対し、
「そうですね...買いますか!」と答えた。
するとS氏は冷ややかな表情で失笑し、
「いや...」と言った。
ちょっとしたやりとりだが、今でも覚えている。
そう、私はこの頃、まだ自分の人生の大半を自分で決められない、「甘ちゃん」だった。
今まで散々だらしなく親のスネをかじり、適当に生きてきたツケが今、回って来ている。
先ほどのS氏のセリフを翻訳するならもちろん、「それくらいてめぇで決めろよ」...だ。
...大量の荷物を抱え、我々三人はデパートの地下に移動し、タクシーをピックアップすることにした。
そこには待ち構えていたかの様に、多くのタクシードライバーで溢れていた。
「タクシー?」とすぐ声を掛けてくるドライバーは、基本的に無視。ぼったくりの可能性が極めて高い。
タクシー選びをS氏に任せ、私はその様子を見守った。
「ไป kongsin Apartment(コンシン・アパートメントまで)。」
S氏がそう言うと、タクシードライバーは両手の5本指を出して来た。恐らく、100バーツ(当時約250円)と言う意味だ。
それに対し、S氏は大きな目をさらに大きく見開き、
「ร้อยยยยยยย!?(100だって!?!?)」と叫んだ。どうやら、高すぎるらしい。
隣でHも失笑し、「こいつナメてる(笑)」と言った。
S氏は私の為に交渉してくれた。
「50 บาทวันที่เเล้ว!! (この前は50で行ってくれたぞ!)」
タイでの交渉は迫力があった。平和主義の私にはムリそうだった。
その後、納得のいかなそうな顔をしつつ、ドライバーは70バーツまで価格を下げた。今思えば、これでも高いほう。
S氏もその提示額に失笑し、「はは。まぁ、仕方ないや。70バーツ、払って下さい。」と言った。
値切りも上等、か...。私にとって、全てが未知の領域としか言いようが無い。
これから上手くやっていけるかどうか...まだまだその不安は消えなかった。
アリを撃退する為のチョークを買って来たので、ドアの下などに濃くラインを引いた。これで、アリはこのラインに沿って次々に死んでくれるらしい。
その後、外で買ったアイスのカップをテーブルに置き、ベッドで横になった。
目が覚めると...
...真っ黒。今度は黒アリが列をなして、お部屋にこんにちは。
なるほどな...これがタイで生きて行くと言う事なのか...。
やれやれ、先が思いやられるよ。
—その7へ続く—
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