タイでのエピソード・その5
ーその4の続きー
タクシーはまっすぐ、バンコク市内のラチャプラロップと言う地域まで走った。スワンナプーム空港から約一時間ほどで到着する。それにしても...
すんげぇ渋滞!
日本では考えられない。タイではこれが、日常だ。凄まじい...
走っている最中、公園の側に立っている女子大学生達が見掛けられた。
Hが「いいねぇ」と言う。
続いてS氏が「うおー!あのケツ、◯ン◯ンいわしてぇ〜!」と叫ぶ。
それを見て運転手もニヤニヤしながら、「好きだねぇ」と言った感じで頷く。
...これがタイか。
「これは皆、学生ですか?」
私がそう聞くとS氏は「多分そうだよ」と答えた。
「タイ人は見栄っ張りだからね、自分の身の丈に合ってない物を持ちたがるんだよ。こいつら皆、最新のiPhoneが持ちたくて体売ってるのさ」
なるほど。タイ人の気質から学ばないといけないようだ。
「相場とかって、幾らなんですか?」
私がそう聞くと、S氏は「学生だったら、1000バーツも出せば喜んでついて来るよ。安けりゃ500バーツだね。」
当時、1バーツは約2.5円ほどだった。1000バーツはつまり、2500円。マジか...2500円で体を売るのか。
「...ドン引きしてるねぇ」と、S氏が言う。正直、図星だった。
その私の様子を見て、S氏が続ける。
「タイを想像だけで語る奴は多い。確かにふしだらだよね。でもさ、田舎の家に生まれ、学校にも通えない。二十歳になっても文字の読み書きも出来ない...
...そうなったらもう、この国では体を売るしか無いんだよ。このタイってのは日本以上に学歴社会だからね。つまり、金持ちしかまともな生活ってやつを選べない。」
タクシーの涼しいエアコンのおかげで冷静さを取り戻していた私は、S氏の話を一字一句、聞き逃さない様に集中していた。兎に角、この環境に適応しなければ。
夜の異世界を窓越しに見ていると、運転手がS氏に向かって口を開いた。
「Soi 18?(ラチャプラロップのソイ18ですよね?)」
それに対してS氏が「ครับ(はい)」と返した。
...カップ...?
あぁ、そう言えばこの国では敬語を「カップ」と言うんだっけ。女性は「カー」だっけかな?
S氏が「タイ語、勉強してきた?」と言ってきたので、正直に「いえ...ワケ分かりません」と言った。
するとHが笑いながら、「大丈夫ッスよ。俺も分からんすもん(笑)」と返した。
ウソウソ。この時点で、奴はかなりタイ語に熟達していた。今思えば、調子の良いHらしい発言だ。
Hはどこかひょうひょうとしていて、S氏とは真逆の性格。S氏が典型的なA型なら、Hはまさにど真ん中のB型。大雑把で細かいことは気にせず口も悪いが、実は誠実に仲間を愛し、大切にする。体型はヒョロヒョロだが、S氏や私よりも遥かに物事をハッキリと言い、さらに精神も鋼の様に屈強だった。タイ語もS氏より明らかに熟練していた。
ちなみに「Soi(ソイ)」は、タイでは「通り」のことを言う。例えば、「スクンビットのソイ5」...みたいな使い方をする。
そのラチャプラロップのソイ18に到着した。目的のアパートはすぐに見えて来た。タクシーを降りると、また別世界の熱気を感じる。
アパートの名前が書かれた壁を見つけた。
「こんグ...しん...あぱーとめんと?」
「そう。コンシン・アパートメント。俺もカネの無い時は、ここでお世話になったんだ。」
そう言うと、S氏はすぐに案内してくれた。
このアパートの事務所は一階の入り口のすぐ側にある。ヨボヨボのオーナーを相手に、S氏が契約を進めてくれた。
そこで私は言われるがままパスポートを提出し、必要なお金を払った。どうやら一ヶ月の家賃は3800バーツ(当時およそ8000円)。
「いい?これで二ヶ月分のデポジットと前家賃を払ったんだからね。だから、今月とこの日までは払わなくて良いんだよ。再来月から、払う事になるんだからね。分かった?」
S氏が丁寧に説明をしてくれた。私は了解し、「はい」と頷いた。
全ての契約が完了した後、HとS氏は部屋までついて来てくれた。部屋は二階の様だ。階段を登って、通路の奥。
...画像が無かったのでこれにしたが、実際はこんなに綺麗じゃ無い。むしろ、廃ビルに近い。まぁ...贅沢は言ってられん。
部屋に進む途中、Hが「んじゃ、おつかれー。」と言い、通路途中の部屋に入った。
「え?」
「おう、H、今日はサンキューな」
「いえいえ」
...事態が飲み込めない私は、S氏に質問した。
「あれ?H君は俺と同じアパートだったんですね?」
「そうよ。言ってなかったけ?」
同じどころか、私の部屋の目の前だった。ずっと暗い道を一人で歩いている中、光が差した様な安堵感が私を包んだ。
「心強いです。」
私がそう言うと
「Hはああ見えて仲間思いだからね。困ったら頼ると良いよ。」とS氏が答えた。有難い...私の為に、S氏とHは色々と動いてくれていたのだ。
真っ暗な部屋に入ると...
そこにはキングサイズのベッドが、マットのみでドン!と置いてあり、さらに申し訳ない程度のソファーと小さなテーブルが置いてあった。ただの広めのひと部屋。....以上、って感じ。
S氏が「...まぁ、こんなもんよ。我慢しなさい」と言った。
私は「はい...」と返した。
はい、としか言い様が無いからね...。
所々ヒビの入った壁。アリが掘り抜いた、至る所にある穴。狭くて汚いベランダ。トイレと一体型の水シャワー。
...私がカーテンを開けると、何かが凄まじいスピードでサーーーっと壁を走った。
「うおっ...!!」
それを見たS氏が笑いながら「ははは。トカゲがいるよ」と言った。
「それじゃ、また明日連絡する。生活用品の買い出しに行こう。今日はゆっくり休んでよ。おやすみ。」
そう言うと、彼は私の部屋を後にした。
...ろくな毛布も無い。と言うか、暑すぎていらない。
疲れた私はTシャツと短パンのまま、体をムダに大きいベッドに放り投げた。
部屋を暗くして暫くすると、トカゲがどこかで「チッチッチッ...」と鳴いた。
...今日からここで、生きていくのか...。
ーその6へ続くー
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