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タイでのエピソード・その12

その11の続き—

私がツインタワーで雨宿り...もとい「スコール宿り」をしていると、1人のマレー人女性から話しかけられた。

顔に関しては、「天使にラブソングを」で有名なウーピー・ゴールドバーグに非常にそっくりだった。激似と言っても良い(笑)。

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私と半ば強制的に握手を交わすと、彼女(以下、 ウーピー・ゴールドバーグ)は口を開いた。

「コンニチハ、アナタ、ニホンジンデスカ?」

カタコトだがそこまで下手ではない。むしろ日本語が上手な方である。不安な中で日本語を話すことができる人に話しかけられた私は、すっかりテンションが上がってしまった。

「はい、そうです。あなたは、にほんごが、おじょうずですね!」

私は、相手の日本語レベルに合わせて、ゆっくりと喋るようにした。 どうやら、娘さんと一緒にいるようだった。

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その娘さんも、私に向かってにっこり微笑み、手を振った。

一緒に食事をしないかと誘われ、少々戸惑いながらも、ツインタワーの下にあるレストランで一緒に食事をすることにした。

ええと... あまりにも恥ずかしいので先に言っておくが、こいつらは有名な詐欺師である。いわゆる「トランプ詐欺」と言うやつだ。大体の観光ガイドに書いてあるやつ。

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知っている人は多いんじゃないかな?基本的に、テンションが上がって油断している日本人旅行者に話しかける。

手口としてはこうだ。 まずは話しかけて仲良くなり、「娘」と言う設定の人物も加え、一緒に食事をする。

その後、その娘役が「これから留学で日本に行く」と言うストーリー設定を展開するのだ。

そして、 そこで必ず「だから娘のために、日本語を教えてほしい」と言う展開にもっていく。 それから自分の家に招待し、たくさんのご馳走を提供する。

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ちなみに、そのご馳走の中には睡眠薬が入っている。そこで眠ってしまえば最後、当然のごとく身ぐるみを剥がされて終わり。

その眠気に耐えたとしても、 二重のトラップが待っている。その家の持ち主…いわゆる「夫」の役の男が、「カードで遊ぼう」と誘ってくるのだ。

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大体がブラックジャックかポーカー。 遊んでいると、「これから友達を呼ぶので、2人でズルをして大儲けしよう」と言う誘いを持ち出す。

しばらくするとその「友人役」が登場し、 話の通りカードで勝負することになる。

最初のうちはうまくいくのだが、話と違って最終的になぜかこちらが負けるように仕掛けてくる。

結果、こちらは大きく破産してしまい、持っているお金を全部取られるか、「クレジットカードを出してそちらから払ってほしい」と言われる。

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断ったり逃げようとすると…言うまでもなく痛い目に遭う。

 マレーシア…というかカンボジアを含む東南アジアでは、観光客を狙ったこの手の事件が跡を絶たない。空港で警備員がマシンガンを持っている理由がよく分かるだろう。

私は奴らがそんな人間たちだと一切思わず、まんまと誘いに乗ってしまった...と言うわけだ。

ウーピー・ゴールドバーグは、ベタベタの シナリオ通りに展開しているようだった。

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「私の娘が今度、東京に留学に行かなければならない。だから日本語を教えてあげて欲しい。」と私に言ってきたので、私は快く了承した(バカ)。

私はどこまでお人好しなんだ…。

家まで招待するとの事だったので、(特にこれといった予定も無いしなぁ…)と思っていた私は、彼女が呼んだタクシーに一緒に乗って、「彼女の家」とやらに向かった。

その家に到着した後、1人の大柄な男性が私を迎え入れてくれた。白髪まじりの髪とヒゲ。パッと見、うだつの上がらないジョージクルーニー(笑)。

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話によれば、その男性はカジノのディーラーだそうだ。

家の中には他にも若い女の子がいる。子供役だろう。一緒に話しているうち、おいしいマレー料理とお茶を提供してくれた。

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私は提供してもらえるお茶をガンガン飲んだが、疲れと眠気を感じていたものの、そこで眠りに落ちる事はなかった。

ウーピー・ゴールドバーグは、そんな私を見て不思議そうに見つめていた(笑)。

「It's good.Tasty.(美味しいですね)」と 快くいただいている私を見て、ウーピー・ゴールドバーグは目を見開いて、

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(...こいつ何で眠くならねぇんだ...?)てな感じで 歪んだ笑顔を見せていた。

そうこうしているうちに、男性が「カードで遊ぼう」と言い出す。

私はさっさとおいとましようと思っていたが断れず、 誘いを受けてしまった。彼が誘ってきたカードゲームはブラックジャック。まぁ定番中の定番。

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そして、いつの間にか「カネ持ちの友人を呼んで騙し、2人で儲けよう」と言う話になってくる。

彼が「親」となり、隣にいる友人にバレないよう私に持ち手のカードを見せ、 陥れて儲けようと言う話だ。

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私はもともとそういう話が好きじゃなかったので、あまり乗り気ではなかった。

そんな時、私は決まって愛想笑いをしていた。

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だからこそ基本、馬鹿にされていたし、今まで周りにも舐められていたんだと思う。 人間は好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとハッキリ言った方が良い。

今の私は様々な人間を見てきたし、様々な経験をしてきたので180度変わったが... この頃の私は本当に「甘ちゃん」だった。

私はその男に、歩くスペースも無いほどの狭い部屋に案内された。

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テーブル1つと、椅子をいくつか置くことができる程度のスペースしかない。しかも入り口から1番遠いところに座らされた。逃げ場なし。

そして...数分後、「友人役」が登場する。

作り話ではなく本当の事なので、信じてもらうしかないのだが...

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その友人の名前は「Mr.マリク」と言った(笑)。ガチですよ。マリックではなく「マリク」なのがポイント。

 もうこの時点で本当は疑うべきなのだが…睡眠薬の効果も手伝ってか、頭が朦朧として特に何とも思わなかった。

「オウ、メルシ〜♪」

Mr.マリクはナヨナヨしながら 私に何語なのかよくわからない言葉をかけつつ、握手をしてきた。

確かに某マジシャンのようなヒゲを生やしている。 

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手には金の指輪とブレスレット、そして首には金のネックレスをし、ニヤっと笑う笑顔には金歯が光っていた。...これでもか、的な。

ディーラー役の男は私に笑いながら耳打ちし、「Mr. Maric is gay.(奴はゲイなんだ)」と言った。そこでも私は愛想笑いをした。

そして、カードゲームが始まる。

淡々と、そしてスピーディーにゲームが展開され、 予定通り私が次々と勝利していく。 

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その間もウーピー・ゴールドバーグは、私に止めどなく睡眠薬入りのお茶を飲ませてきた(笑)。...すいません、私には効きません。

そして...なぜかMr.マリクに極端に良い手札が集まり始め、どんなにズルをしてもこちらが勝てなくなり、負け続ける。

...流石の私も、「Mr.マリク」の登場の段階で懐疑的になっていたのだが…この辺からようやく確信に変わった。

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「ハメられた...!!」

ディーラー役の男が焦った表情を見せ始める。

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「まずいぞ!Mr.マサヤン!このままでは我々は負けてしまう。ここは追加投資をして、取り戻すしか無い! 今、カネはあるだろ?何を持っているんだ? 何でも良い、出すんだ!ジャパニーズエン、タイバーツ、マレーリンギット...とにかく全部出してまた勝負しなければ!クレジットカードでも良いぞ!」

......やられた。

さーーーて、どうするか。

先ほど説明した通り、場所的に逃げるのは不可能である。

歩くスペースも無いような狭いところで、入り口から1番近いところに椅子があり、その椅子をどかなければドアを開けることすらできない。しかもその椅子に座っているのは「Mr.マリク」だ。 恐らくこいつがボスだろう。

強行突破も不可能ではない。だが…

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...そう、 ここは日本ではない。当然、奴らの懐には「あれ」が入っているだろう。

(何だよ...ここまでか。)

人間てのは「いざ」と言う時は割と冷静なもので、軽く死を覚悟し、ハラをくくった。

勿論、ただ死ぬつもりも無い。出来る事はしておこう。

作戦、実行。

私は立ち上がって、叫んだ。

「I wanna pee!!!(漏れそう!)」

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...そう言うと、 ディーラー役の男は驚いた顔をして、「A~Hu!?!?」と言った。

続けて私はアソコを押さえたまま、「 Where is washroom!?(トイレどこ!?)」と言った。

いかにも「漏れそう」と言う演技をして見せた。...文字通り、「迫真の演技」ってやつである。まぁ、命がかかっているので...これも文字通り「命懸け」ってやつだわ(笑)。

ディーラー役の男は「そんなもん後でいい、それよりもこの問題を解決しないと!」 みたいな雰囲気を見せてきたが、それでも私は食い下がり、「漏れる!やばい!」的に猛烈にアピールした。

すると男は折れ、「ええい、行って来い!」と言った。

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私はすぐに漏れる素振りを止めず、Mr.マリクを押し退け、 急いでその部屋から出た。

左に行けばトイレ、そして右に行けば出口。 出口からさっさと抜け出せばよかったものの、もし奴らが「アレ」を持っていたら、後ろから撃たれるだろう。

そう思った私は、トイレの窓から抜け出そうとした。左のドアを開け、さっとトイレに入る。

そして... 

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子供すら抜け出すことができないであろう、トイレの小さな窓に愕然とした。っていうか、鉄格子でガードされてるし。

私は宣言通りそこで小便を済ませ、深く深呼吸をした。

「さーーーて。どーすっかなーーーーーーーー。」

そう呟いた後、親を思い出した。こう言う時に思い出すのは何だかんだ、親、そして今までの人生だ。

用を済ませた後「死んだらごめん♪」と呟き、意を決してトイレから出、真っ直ぐ出口へと向かった。

私はあえて走らなかった。ゆっくり、そして堂々と歩いて見せた。

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どうしてダッシュで脱出しなかったのかは、今でも分からない。

もしこれが人生の最後なら、「そんなオタオタした情けない最期を迎えたくない」...と、そう思ったのかもしれない。

横から「おい!マサヤン!どこに行くんだ!?」と言うディーラー役の声が聞こえる。無視した。

そして...

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私はあっさりと脱出に成功した。

心の中で「...あれ?」と言う気持ちが沸いた。意外と...大丈夫なんだな。

振り返ると、家族役に徹していた全員が私に向かって手を振り、「悪かった!マサヤン、もうやめよう!これから皆で一緒にツインタワーに遊びに行かないか?案内する!だから戻って来てくれ!」的な事を叫んで来た。

...私は呆れた顔でその誘いを無視し、広い道路に出るまで堂々と歩き、タクシーを呼ぼうとした。

歩いていると、例のウーピー・ゴールドバーグとその娘役が、早足で私に追いついてきた。

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「マサヤン...オコッタカ?...ゴメン。ナァ、オコッタカ?」と言って来た。

...???何だ、こいつら。何がしたいんだ。私の情が移った...?まさか。

でも確かに、彼らと一緒にいたひとときはとても楽しく、心から感謝していた。 

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タクシーでここに向かっている間も、 タイの話や日本の話でめちゃくちゃ盛り上がったし、私がある程度の英語を話せると言うこともあって、かなり仲良くなっていた。

...チンピラにも情ってのはあるのか。

ひょっとすると、本当に悪いと思っていたのかもしれない。...まぁだから、大した奴らじゃ無かったって事さ。銃も持って無かったかもしれん。

ウーピー・ゴールドバーグの表情を見ると、下を向いて眉をひそめ、本当に申し訳なさそうな表情をしていた。マジかよ、って感じ。こんな事、あるかね?何なんだよ、この状況は(笑)。

私は、カタコトの中学英語ばりのレベルで、彼女に次の様に言った。

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「Your cooking was very delicious.(あんたの作ってくれた料理は本当に美味しかったよ。)」

さらに彼女の胸を指差し、「Have justice in your heart.(正義の心を持て。)」と続けた。

ふと見ると、娘役の女性が私のためにタクシーを呼んでくれていた。だから、何なんだよこの状況は(笑)。

私はさっそうとタクシーに乗り、ツインタワーまでお願いした。

私のために、ウーピー・ゴールドバーグと娘役が行き先をドライバーに伝えようとしてくれたが、 タクシー運転手のおじさんが彼らを見て、キレるように何か叫んでいた。

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凄まじい剣幕。もしかして...こいつらこの辺じゃ有名な詐欺師達なのかもしれんな。

おじさんが「うるせぇよ。消えろ!」的な感じで彼らを一蹴した。こわ...マジで詐欺師どもより100倍は怖かった。運ちゃん強ぇ。

運転している間、「お前もしっかりしねぇとダメだぞ!物事ってのはだな、ハッキリと言って...」的な事を私に言って来た(のだと思う)。

私は「ハイ...すんません...」...ってな感じで恐縮していた。

...そうこうしているうち、目の前にツインタワーが見えて来た。

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遠くから見るとその大きさがよく分かる。本当に圧巻だ。

私は子供の様な目で童心に帰り、「Wow!What a high!(すげぇ!何て高いんだ!)」と叫んだ。

すると運ちゃんは「うん...」と言い、表情が一気に緩くなった。

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その「うん」には、意外性を感じるニュアンスが込められていた。私のピュアな子供心に、少し気持ちが動いたのかもしれない。

その空気を感じ取った私はクスっと笑いつつ、この運転手の人柄の良さを悟った。

ツインタワーに到着。やれやれ...とんでもない目に遭った。

お金を払って「Thank you!」と笑顔で言うと、運ちゃんは「うん、元気でな」的な感じで見送ってくれた。最初に見せたブチギレモードから一転し、とても穏やかな表情をしていた。

...ヒトは分かり合える。そう思った。

はぁ...またS氏とHから、ちゃかされるネタが増えてしまったよ...。


その13へ続く—

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