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5Gと未来の職場、働き方

去る7月31日、パシフィコ横浜で行われた Rakuten Optimism Conference にて、5Gのビジネスへのポテンシャルについてのパネルディスカッションに参加させていただきました。

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5Gはビジネスにどのような変化をもたらすのかという潜在的ユースケースにフォーカスし、また企業経営の視点を中心とした議論で盛り上がりました。5Gは4Gより100倍の高速大容量があり、5G時代にはワイアレスで活用可能と言われている8Kカメラも4Kとは比較にならない解像度があるわけですが、それらはもはや人間の手では扱えない規模の量とクオリティです。端的に言うと、この量と質は、AI との組み合わせによりはじめてそのポテンシャルを最大限に引き出していけることになります。そこにおいては、今までにない活用を考えていくOut-of-the-boxを可能にする企業文化をどう醸成していくかというところも重要な論点となります。パネルディスカッションでは様々なヒントも出まして、ここから我々も更に歩みを進めていきたいと思いました。

さて、そこで今回も5G関連の記事を書きたいと思います。
5Gでいくと、技術的な入門としては、以下のIEEE Spectrum のVideoがコンパクトでわかりやすいのですが、



アプリケーションやビジネスの観点としては、例えば、先日、5Gの概要とどのような変化が起こりうるのかについて、特にIoTの切り口で記事を書きました。


今回は、5G によって、企業内の職場はどう変わっていくのか。そして、働き方はどのように変わるのかについて言及したいと思います。

5Gが職場・働き方にもたらす主たる変化については「リッチに生産性は向上」「職場は分散し、モビリティも向上」という2つの方向性があります。


■よりリッチかつ高い生産性の実現
 よく5Gは4G/LTE に比べて、10倍以上高速になる、と言われますが、それも含め、高速大容量、低遅延、超多数端末接続という3大特徴があります。そのうちの一つ、高速大容量という特徴によって、仕事における様々なコミュニケーション、ドキュメントワークや協働はよりリッチなコンテンツをベースにしたものへと変化し、生産性を向上させるでしょう。
例えば、職場におけるコミュニケーションシステムには、電話、ビデオ会議、メール、メッセンジャー、リモートからのアクセスアプリケーション、コンテンツ管理システム等があります。これらは企業における社員間のやりとりやコラボレーションを支え、各部署のアウトプットに貢献しているわけですが、そのシステムすべては5Gでよりスムースなものへ、多彩なものへとアップグレードしていくことになるでしょう。通信の遅延や途中途中のぶつぎれに悩まされていたビデオ会議も快適に行うことができ、接続不良による聞き直しや言い直しによるロスは皆無になるでしょう。ビデオ会議における高精細の動画の共有もストレスなく行われるでしょう。

従来のものがアップグレードするだけでなく、今まで十分に用いられてこなかった技術の活用も進み、エンタープライズアプリケーションの新しい領域を切り開いていくでしょう。例えば、ARやVRです。建設業、住宅産業、製造業においては、AR、VRを活用することで、従来のコンピューター画面にうつされた平面での見取り図、設計図、製品のモデル等に頼らなくてもよくなります。ヘッドマウントディスプレイや今後開発され、普及されてくることが期待されるホログラフを投影するディスプレイを通し、直接3Dモデルを用いてプロジェクトを進めることが可能になるでしょう。
もちろん直接3Dモデルを使うことは、ヘルスケア領域、教育産業、農業、交通、警備等、多様な領域においても従来の業務プロセスをより効果的なものへと変化させていくと思われます。

(また、このような3Dモデルベース、つまりよりリアルに近いモデルでの仕事の進め方が普通になっていくと、2002年にMicheal Grieves 博士によって提唱され、製造業、建設業を中心に議論されてきた未来ビジョンである Digital Twin とWorkplaceの未来がつながっていく可能性があります。)

AR、VR以外の他の例としては、企業内情報システムにおける AIスピーカー、Voice Assistant の普及も考えることができます。スマホが個人にまず普及してから、BYODとして情報システムを変えたように、AI スピーカーが家庭利用・個人利用として浸透し、その操作性を習熟したあとに企業内に入っていき、企業情報システムに組み込まれていく。5G は大きなその後押しとなります。職場のデスク周りや会議室にさりげなく存在した AI スピーカーに、Voice のインタフェースでの情報問い合せやワークフロー処理を行えることを可能にさせることで、新しい形のプロセスの効率化、コミュニケーションの円滑化、従業員エンゲージメントの向上をもたらします。またそこに機械翻訳の機能も自然に入り込んでいくでしょう。これにより、外国人材の活躍もよりしやすくなりますし、世界中の人材とともに働いていくという職場に進化していき、高い生産性が実現されていくでしょう。


 向上するのは生産性だけではありません。5Gは、社員の満足度の向上にも役立つかもしれません。SK Telecom では5G環境を想定したスマートオフィスのデモンストレーションをしています。 


 過去に行われたスマートオフィスの実験では、SK Telecom の従業員300人の調査によると、80%の従業員は仕事と余暇のバランスが改善されたと回答しています。未来的なオフィスでは、働く質も変化することになります。より人間らしい働き方を生産性の向上とともに議論するようになっていくでしょう。


■職場は分散し、モビリティも向上
 5Gが働き方に与える影響として、職場の分散、モビリティの向上について考えるにあたって、少し将来ありうる5G対応PCの話をしてみたいと思います。

 ちょっと前に流行りましたLTE対応PCを思い受かべてください。ASUS の NovaGo、HP の Spectre、Lenovo の Yoga、Samsung の Galaxy Book2、パナソニックのレッツノート、Microsoft の Surface、各社、各ブランドでLTE対応PCがでてきました。SIMカードさえ装着していれば、ネットワークが常時実現され、(InstantGo対応であれば)スリープ状態でも通信ができるようになりました。スマートフォンは画面が消えている状態(待ち受け状態)でポケットに入れていてもLINEやメッセージの着信があればすぐに画面がONになり、通知がされます。これと同様のことが実現でき、いつでも使いたいときに、ノートPCを取り出して開くと、すぐさま作業に着手できる。(Wifi でのパスワード入力が必要なケースと違って)LTE対応であるとストレスを感じない、いつでもどこでも必要とあらば直ちにタスクを開始することができるようになりました。
 一般に、このような機能は、移動・出張の多いビジネスパーソンにおいて、新幹線の中やタクシーの中でも、Wifiと異なり常につながった状態を維持しやすく、移動中の短い時間でも作業を行えるというケースでその便益を理解されました。接続維持だけでなく、フリーのWifi スポットを使い、パスワードや重要な情報が抜き取られる心配もなく、セキュリティ的にも向上します。また、PCの紛失時にも、LTEが搭載されていれば位置を特定できる可能性が高まるというメリットもあります。

 しかし、そのような移動・外出時の話だけでなく、もっと広いポテンシャルがあります。例えば子供の面倒を見るために在宅ワークで働いている方にとっても小さい子供がお昼寝したスキを見計らってパッとPCを開いて、ToDo を終えてしまうことができるというような感じで、様々なスタイルをサポートするものでもあるわけです。そして、将来、5GにPCが対応すると、Video通話やよりリッチなコンテンツもまたたく間にやりとりすることができる。このような瞬間的な作業開始・終了を、大容量でも可能にする5Gは、多様化する我々の生活環境や嗜好にあわせた働き方と活躍を支えてくれることでしょう。

 ネットワーク環境の整備と5G の浸透と共に静かに職場という概念も変化していくことになるでしょう。オフィスの様々な有線は消えていき、フリーアドレスは促進され、自由に動き回って働くようになるでしょう。5G対応PCのイメージのように、オフィスに通勤するというスタイルも必然的に変容していきます。出張という手段の使い方も変わります。以前、地方の未来という文脈で、ワーケーションに関する記事を書きました。5G はまさにワーケーションを可能にするインフラとなります。働く場というのは、一箇所に留まらず、あらゆる場所に分散していくことになります。

このようなコンテキストの中、企業のオフィス向けの不動産マーケットも変化せざるをえないでしょう。企業がオフィスを専有する形ではない、WeWork のようなワーキングプレイスもより増えていくでしょう。それらはコラボレーションを促進させる柔軟な働き方につながっていく。組織をよりレジリエンスなものにし、パートナーとの協働もグローバルなレベルで進んでいきます。

世界中で増加しつつあるデジタルノマドは、5Gの定着でより一般化します。デジタルノマドは、以前エストニアの記事を書いたときにも言及しました。

グローバルで見ると、リープフロッグがありえます。今まで後進国だった国において、従来のインフラ整備を飛び越え、いきなり 5Gが普及していくことにより、エストニアのようなデジタルノマドワーカーを支えていくデジタル國家が更に増えていくことでしょう。

■より創造的な世代へ
 ここまで見てきたような職場環境の変遷や今までにないエンタープライズアプリケーションや各種技術の進展が助けとなって、より我々の働き方や職場はこれまでの様式から変わり、 Brainstorm Lab とでも言えるようなありように徐々に変わっていくでしょう。デザインシンキングに代表されるアプローチやアジャイルなプロジェクトの進め方も、誰もが前提とする基本的な素養としてコモデティティ化していくと思われます。

21世紀に成人、社会人となっている、あるいはこれからなる、いわゆるデジタルネイティブやミレニアルと呼ばれる若い世代の人々はこのような環境、働き方にそもそも親しみがあるというポイントがあります。彼らが生きてきている現代は、技術が凄まじいスピードで発展し、新しいツールややり方が次々と生み出され、イノベーションがすべてをドライブし、常に変化し続けてきたという時代です。逆に言うと上記で示したような環境や働き方、その先進のアプローチの整備に取り組まないことには、彼らのパフォーマンスを最大限に引き出せないかもしれません。それどころか、働くフィールドとして彼らに選んでもらえなくなる恐れもあるでしょう。

いかに若い世代の希望にあった職場を目指すかというのは極めて重要なテーマになります。例えば、以下は現代の日本の漫画家の一日の生活風景なのですが、オフィスはシリコンバレーのスタートアップのようなクリエイティブな職場で、漫画を描く上でのすべての作業はデジタル化されていて、クラウドでワークスペースを共有しているので、アシスタントへの指示も仕上がりのチェックも誰も席を立たずに、画面を見て行うだけ。アシスタントの方々もそれぞれの使い慣れたデジタルツールで作業をして作品を仕上げていく。5G 時代にはより大容量のデータを自在に扱いながらコンテンツを創造していくことでしょう。


■最後に
以上、今回は5G によって、企業内の職場はどう変わっていくのか。そして、働き方はどのように変わるのかについて述べました。5Gですが、2023年までに10億人のユーザーが使うことになるだろうという予測があります。ではありますが、普及は一筋縄に行く話でもなく、職場や労働のありようにおいてここで述べたような5Gのベネフィットを享受するには、各必要とされる機器・デバイスの整備、アップグレード、置き換え諸々が必要なわけで、それには相応の時間がかかります。更にもちろん、セキュリティにまつわる懸念等もありえます。ですが、5Gの技術的特徴の一つであるネットワークスライシングにより、より用途に応じた使い分けによるセキュリティの強化という面もありえますし、AI を活用した不正検知の技術も同時に進化していくことが期待できます。十分な対策をとりながらも、新しい5G活用は進んでいくことになります。全てがワイアレスになるとしたらバッテリーがいくらあっても足りないかもとも思いますが、5Gのポテンシャルを活かし、より創造的な、新しい仕事と生活の質も実現する働き方を目指して進んでいければと思います。


■おまけ
5Gはあらゆることを変革するインフラとして機能することにより、第四次産業革命をもたらす可能性があります。第四次産業革命に関しては以下の記事で書いています。こちらもご覧いただければと思います。


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