見出し画像

チーム・組織のパフォーマンスを高める比較優位論

現代的なR&D組織・イノベーション・インキュベーション組織立ち上げに関して、先日、こちらのポストで何が必要となりそうかについていくつかの記事を引用して触れました。


本日は、それとは趣を変えて、組織のパフォーマンスについてちょっとだけ。比較優位論に触れます。


リカードの比較優位論 (comparative advantage) というワードがあります。経済学者であったデヴィッド・リカードが提唱した概念で、貿易理論におけるアダム・スミスの絶対優位論への発展的批判として提示されました。

比較優位は、複数のチームや部署からなる組織全体のパフォーマンスをどう高めるかの戦略を考えるにあたって非常に重要な概念で、経済学分野においては基本的な教えの一つなのですが、他の分野ではほとんど知られていない考え方です。

一般的解説もよいといえないこともあって、時に「時間価値を考えよう」みたいな説明をされてしまいます。日本語のWikipediaでもそのような説明をされているのですが、あまりいい説明ではないのではないかなと思います。Wikipedia では、アダム・スミスの絶対優位論の項目内に、それに対する批判としての比較優位がでてきますので、そちらを参照することをおすすめします。

もともとは貿易理論の考え方です。2つの国、国家Aと国家Bがあったとします。それぞれ、XとYという製品を生産しているとします。それぞれどれぐらいのコスト(労力、時間でもいい)をかけてXとYを生産しているかとみたとき、

 国家A: X のコスト 4、Yのコスト 5

 国家B:  Xのコスト 10、Yのコスト 6

だったとします。国家Bは、国家Aに比べるとX,Y どちらもより多くのコストをかけないと生産できません。つまり、どちらの製品でも国家Aは高い生産性をもっています。この状態を、国家Aは、国家Bに対して絶対優位にあるといいます。(対して、国家Bは、絶対劣位にある、といいます。)

この時、一見、国家Aは、製品X、製品Y どちらも自分で生産をしたほうがよいようにみえます。しかし、実はそうではないのです。それが比較優位の考え方です。

国家B の数字をよく見ます。すると、国家Bは、Xを生産するのにコスト10をかけてますが、Yを生産するのはそれよりも少ないコスト6ですんでいます。ですが、国家Aは、Xのコストの方がYのコストより少ない。

つまり、XとY の生産コストはどちらがよい (低い)のかをみたとき、

 国家A: X のコストの方がYより少ない → 自分の中では、Xを作るのが得意

 国家B: Yのコストの方がXより少ない → 自分の中では、Yを作るのが得意

という逆の関係を見て取れます。このときの、「自分の中では、Xを作るのが得意」「自分の中では、Yを作るのが得意」という状態があり、それが相手の国と得意なものが異なる状態がうまれたとき、比較優位がある、といいます。

さて、国家Aと国家Bがどちらも、それぞれ、お金が120あったとします。ここでお金120のうちの半分をXに、半分をYの生産にあててると、

 国家A:Xを15個つくり、Yを12個つくる。

 国家B:Xを6個つくり、Yを10個つくる。

国家A+国家B 全体として、Xは21個作られ、Yは22個、作られています。

ですが、国家Aは、自分の中では、Xを作るのが得意でXに集中し、国家Bは、自分の中では、Yを作るのが得意なので、Yに集中すると、

 国家A: Xを30個作る。

 国家B: Yを20個作る。

となります。結果として全体で、Xは30個、Yは20個、作られています。

Yが22個より2個減っているので、それではここで、Yを22個になるように、国家Aの生産を調整します。

すると、以下になります。

 国家A:Xを27個作り、Yを2個作る。 (お金が2余ります)

 国家B:Yを20個作る。

結果として、全体で、Xは27個、Yは22個となり、普通に作ったときよりも全体のXの生産は6個増しています。つまり、国家Aと国家Bは、それぞれ比較優位の生産に集中し、かつ、国家Aと国家Bで協力しあった方が(貿易をした方が)全体の生産量は高まる、ということができます。

つまり、こうです。

「X、Yどちらの生産においても国家Aがたとえ優れていたとしても、比較優位があるのであれば、国家Aは国家Bと協力をしたほうが、全体のパフォーマンスを高めることができる」

です。ここで国家をチーム、生産をタスクにおきかえると、こうなります。

「X、YどちらのタスクにおいてもチームAがたとえ優れていたとしても、比較優位があるのであれば、チームAはチームBと協力をしたほうが、全体のパフォーマンスを高めることができる」


比較優位論は、上記の例が示すように、部署間や個人の分業にも適用されうる、「絶対劣位である部署や個人がいたとしても、コラボレーションをしたほうが全体のパフォーマンスは高まる」という知恵の話でもあります。

一見、直感に反する (counter-intuitive) がゆえに、まさに知識として知っておかねばならないことで、また知らないと、組織のパフォーマンスを高める原則を知らないことになりかねない、ということでもあります。


とはいえ、(上記の解説はかなり簡便なもので、)比較優位論の正確な解説は理解するのが難しいし、これをどう消化して応用していくかについても難しいのかもしれません。

 こちらは比較優位の解説をしているVideoです。貼っておいてなんですが、このビデオもあんまりよい説明ではないところがあります’。ですが、コメント欄に指摘と解説があって、比較優位は、例え、Annが両方において絶対優位であっても、比較優位で分業を決めることが全体のパフォーマンスがあがるということであり、つまるところ、比較優位あるところ常にコラボレーションの価値は存在するということであるというのが大事です。


おまけ

では、具体的にどう個人の多様性を尊重し、チーム・組織のポテンシャルを引き出していくか。そのためには、「一人ひとりと向き合う」ことが必要です。向き合うとは、「結果だけでなく、プロセスを評価することも大切にする」「育成やキャリア機会についても考える」ことも意味します。ですが、そのような「向き合える」状態にすぐ行けるとは限りません。その人の気持ちや価値観に触れることで、その人の個性を活かす「向き合い方」ができるようになります。

その具体的な手法として、コミュニケーション・セッションの一つである「ポジティブ・サラダバー」の解説スライドをいかにご紹介します。後日、本手法に関する記事も書こうと思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?