Sherelle「160 Down The A406」


画像1


 ロンドンのDJ/アーティスト/プロデューサーであるシェレルは、ダンス・ミュージック・シーンの最前線で活躍している。DJ MagやNoiseyといったメディアにミックスを提供し、ボイラールームでのDJは多くのリスナーに絶賛された。2021年5月、黒人とセクシュアル・マイノリティーを支えるプラットフォームBeautifulを作ったのも、大きな話題を集めた。
 No IDというパーティーでのDJが有名なネイナとレーベルHooversoundを設立し、素晴らしいアーティストを積極的に紹介しているのも見逃せない。カタログを眺めると、ジャングル、テクノ、フットワーク、ドラムンベースなどさまざまな要素を接合したダンス・ミュージックが並んでいる。どの作品もダンスフロアに集う者たちを汗だくになるまで踊らせるグルーヴでいっぱいだ。

 そんなシェレルが待望のデビューEP「160 DOWN THE A406」をリリースした。全2曲が収められた本作は、オリジナル作品でも才能を遺憾なく発揮できるアーティストだと見事に証明している。音数を詰めすぎず、巧みな音の抜き差しで私たちを踊らせる良質なダンス・ミュージックだ。

 まずは表題曲から評していこう。TR-909風のリムショットが軸のビートは、シカゴ・ハウスやそのシカゴ・ハウスをルーツとするジューク/フットワークの匂いがとても強い。BPM160前後の速いテンポに合わせ鳴りひびく幽玄なシンセ・サウンドは、デトロイト・テクノやIDMといった要素が顕著だ。ひとつひとつのパーツに耳を澄ませると、さまざまな時代や文脈のダンス・ミュージックを宿らせているのがわかる。

 “Rhythm Love(Feel It)”も、表題曲と同じく速いテンポが特徴のトラックだ。ジューク/フットワークが軸なのも同様である。
 とはいえ、幻想的なシンセ・サウンドがより前面に出ているのは、表題曲との明確な違いに聞こえた。スペーシーなサウンドスケープは808ステイトのテクノ・クラシック“Pacific State”(1989)を想起させ、そういう意味ではイギリスのレイヴ・カルチャーの文脈が色濃いトラックと言える。

 「160 DOWN THE A406」は、シェレルという才能をまだ知らない者にとって、無視できない輝きを放つ良作だ。



サポートよろしくお願いいたします。