ノスタルジーの皮をかぶったモダンなポスト・パンク Heartworms「A Comforting Notion」


Heartworms「A Comforting Notion」のジャケット


 ハートウォームズことジョジョ・オームを知ったのは約1年前のこと。ロンドンのロック・シーンにおいてハブ的場所となっているライヴハウス、ウィンドミルでの公演をアップしているYouTubeチャンネルで、彼女のライヴを観たのだ。ミリタリー・ファッションを纏った姿はゴシックな雰囲気が目立ち、瞬く間に筆者の興味を引いた。肝心のサウンドも琴線に触れた。演奏スキルは荒削りなところもあったが、ダークな音像とキャッチーなメロディーを共立させた曲群は、確かな才気を放っていた。

 そんな彼女のデビューEPが「A Comforting Notion」だ。ハニーグレイズやザ・ラウンジ・ソサエティーなど多くの素晴らしいバンドの作品を扱うSpeedy Wundergroundからリリースされた本作は、彼女の才能を示す名刺としては強大すぎるインパクトが際立つ。金属的な響きを放つギターと陰鬱なエレクトロニック・サウンドが交わる全4曲は、ヒリヒリとした蠱惑的初期衝動を見せつける。それでいて、多彩なアレンジや語彙が豊富な歌詞は、初期衝動に頼らずとも多くの人々に聴かれるであろう高い創作力の片鱗を漂わせる。

 強いて連想したバンドを挙げるなら、スージー・アンド・ザ・バンシーズやバウハウスといったゴス系のポスト・パンクだ。呪術的に言葉を紡ぐことも少なくない歌唱法は、スージー・スーを彷彿させる。
 ゴス系のサウンドにありがちな雰囲気頼みの軽薄さがないのも本作の特筆すべき点だろう。音は近寄りがたいサディスティックな空気を醸す一方で、メロディーや譜割りは耳馴染みがよいものも多く、とても親しみやすい。いわば彼女は良い曲を書けるのだ。このあたりの絶妙なバランス感覚を醸造できたのは、優れたメロディー・メイカーであるザ・シンズなどのバンドも愛聴するという嗜好が影響しているかもしれない。

 彼女の音楽を聴くと、偉大な先達が脳裏に浮かぶ瞬間も珍しくない。だが、ライヴでは演劇的なステージングもたびたび見せるなど、音楽以外の要素を躊躇なく自らの表現に取りこむところは、いまのアーティストなんだなと感じさせる。他の新世代と同様、ジャンルで表現を分ける感覚がないのだ。
 そのようなオームの姿勢が注ぎこまれた「A Comforting Notion」は、オリジナル・ポスト・パンクのノスタルジーという皮をかぶったモダンな作品である。



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