ドラッギーな酩酊感とグライム 〜Basic Rhythm『Raw Trax』(Type)〜

 音数が少ない音楽と、セリフで語りすぎない映画は、語らないことで多くを伝えるという点において似ている。受け手の想像力を促し、そうして生まれた受け手の解釈を受けとめる余白が備わった、そんな表現。こうした表現は、言葉を用いらずとも、十分“詩的”だと言える。

 筆者からすると、ベーシック・リズムのアルバム『Raw Trax』は、とても詩的に聞こえる。強烈な低音はリズミカルに刻まれ、音自体の快楽よりもリズムの組みたて方で受け手をトリップさせてくれる音楽だ。便宜的にはベース・ミュージックやグライムということになるのだろうが、間を上手く活かした反復性の強いビートはクラウトロック的で、展開がめくるめく変化するというわけではない。それゆえ、とにかくアガりたい人や、低音を全身に浴びたいという快楽主義者にとって、本作は消化するのに時間がかかる内容かもしれない。とはいえ、時間をたっぷりかけてハメめられていくドラッギーな気持ちよさは、何ものにも代えがたい。

 ジャングルやUKガラージの要素を見いだせる点も見逃せないが、ドライで冷ややかなサウンドスケープがLFO『Frequencies』を想起させるところに、筆者は惹かれてしまった。本作のリズムは紛れもなくダブステップ以降のベース・ミュージックだが、マシーナリーな音色を用いるセンスは、インダストリアル・ミュージックやEBMの要素を嗅ぎ取れるものだ。こうしたキメラぶりは、ミリー&アンドレア『Drop The Vowels』や、ヘレナ・ハウフ『Discreet Desires』に匹敵するレヴェル。

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