最高のアイドル・グループによる私はわたし宣言〜(G)I-DLE((여자)아이들)『I NEVER DIE』


画像1


 韓国のアイドル・グループ、(G)I-DLE((여자)아이들)が『I NEVER DIE』を今年3月にリリースした。彼女たちにとって初のフル・アルバムとなる本作は、スジン脱退という苦境を物ともしない力強さが際立つ作品だ。過去作でも顕著だった社会的規範に従わない姿勢はますます強くなり、そうした姿勢を表現するパフォーマンス能力もレヴェルアップしている。
 (G)I-DLEといえば、リーダーのソヨンが司令塔の役割を担っているというイメージだったが、本作ではソヨン以外のメンバーも制作に深く関わっている。こうした側面は、従来の彼女たちとは大きな違いのひとつであり、グループとしての表現力がより高まったという意味でも歓迎したい変化だ。

 思えば、変化は彼女たちにとって重要な要素だ。アストル・ピアソラ的なラテン・ミュージックを取りいれた“Senorita”(2019)、ウータン・クランに通じるブーン・バップの香りが漂う“Uh-Oh”(2019)、ワルツを彷彿させる3拍子が刻まれる“한(寒) (HANN (Alone In Winter))”など、彼女たちは作品ごとに進化や深化を披露してきた。こういった同じことを繰りかえさない優れた創造性が彼女たちの強みなのは間違いなく、それは本作でも見事に発揮されている。

 たとえばリード曲に選ばれた“TOMBOY”は、ラウドなギター・サウンドが耳に残るロック・ナンバーだ。これまで目立っていたヒップホップ要素が少々後退し、アヴリル・ラヴィーンやパラモアあたりも脳裏に浮かぶパンキッシュな音色が鮮明だ。
 とはいえ、“TOMBOY”はロック一色の曲ではない。4つ打ち的にリズムを取れるところもあり、ロック色が強めのエレクトロ・ハウスとしても楽しめる。この点は筆者からすると、ライノセラス“Cubicle”(2006)やヴァンダリズム“Smash Disco (Vandalism V8 Mix)”(2008)など、ダンスフロアとライヴハウスの境界線を壊すダンス・トラックが多かった2000年代半ば頃のロックやハウスを連想させる。1980〜90年代への郷愁で満ち満ちた表現が目立つ現在において、2000年代と共振できる音を持ってきたのはおもしろい。

 “Never Stop Me”もロック色が強い曲だ。こちらは“TOMBOY”よりも軽快なギター・サウンドが特徴で、ブリンク182のポップ・パンクがちらつく明るい曲調を印象づける。バブルガム・ポップのスパイスを感じさせるシンプルなコード進行や和音も、複雑な曲構成が多い彼女たちの曲群の中では絶妙なスパイスとして聴ける。

 ロックを強調した本作の方向性は、世界的にヒップホップやR&Bが全盛のポップ・ミュージックの中で、異端的存在感を放つことに成功している。その存在感が規範にハマろうとしない彼女たちのオルタナティヴな視点と上手く結びついているのも、プロデュースや物語性の観点から見て秀逸という他ない。
 これを実態が伴わない商業的反骨心と捉えることも可能だろう。しかし筆者は、彼女たちの反骨心に芯を見いだしている。各方面に毒が放たれる“i'M THE TREND”(2020)を筆頭に、過去から現在に至るまで従順とは程遠い姿勢を貫いてきたのが(G)I-DLEだからだ。特にソヨンは、作詞作曲で参加したCLC(씨엘씨)“No”(2019)で古臭い女性らしさに文字通りNOを突きつけるなど、自身の価値観を隠さずに活動してきた。

 だからこそ、《It's neither man nor woman(男とか女とかじゃない)》《Just me I-DLE(私はアイドゥル)》と歌われる“TOMBOY”も、男らしさや女らしさといった性役割(ジェンダー)を打ちやぶる説得力たっぷりなポップ・ソングとして鳴り響く。こういったメッセージを込めたとV LIVEで語ったソヨンの想いは、間違いなく多くの人たちに届くだろう。

 『I NEVER DIE』は、(G)I-DLEが私はわたしと高らかに宣言した威風で溢れるアルバムだ。



サポートよろしくお願いいたします。