Z世代のサブカルチャーと共振するChildsplayのサウンドとヴィジュアル


“♨️ ɧɛɖƈɧɛʄ Lσʂҽ Mყ Bɾҽαƚԋ ⁽ᵈᵉˢᵗⁱⁿʸˢ ᴱˡᵉᵏᵗʳᵒ ᴸᵘᵛ ᶜʰⁱˡᵈ ᴹⁱˣˣˣ⁾ ♨️”のジャケット
“♨️ ɧɛɖƈɧɛʄ Lσʂҽ Mყ Bɾҽαƚԋ ⁽ᵈᵉˢᵗⁱⁿʸˢ ᴱˡᵉᵏᵗʳᵒ ᴸᵘᵛ ᶜʰⁱˡᵈ ᴹⁱˣˣˣ⁾ ♨️”のジャケット


 ロンドンのレーベルChildsplayは理解不能なところがある。2017年頃にダンス・ミュージック・シーンで台頭してから注目しつづけているが、活動当初と現在では方向性が大きく異なるのだ。
 2019年に出たポリトンネルのEP「Time 2 Time」までは、デトロイト・テクノのスペーシーで叙情的なシンセに影響を受けたトラックがカタログの中心だった。しかし、ヴィジル「I̾N̾2̾D̾E̾E̾P̾」(2020)以降のChildsplayは、運営者が総入れかえしたのでは?と思わせるほどレーベルカラーが変わった。なかでも、『SUPER EUROBEAT』シリーズのジャケットみたいな3Dグラフィックを多用し、PC MUSICの感性とも共振可能なヴィジュアルを打ちだしたのはわかりやすい変化のひとつだ。
 変化は扱うサウンドにも及んでいる。ベース・ミュージック、ドレクシア的なエレクトロ、トランス、インダストリアルなど、リリース作品の幅が飛躍的に広がった。そうした努力もあって、DJ Magといった有名メディアでピックアップされることも多くなった。

MarcelDune X NARA「DEAD END JOB」のジャケット
Marceldune×Nara「Dead End Job」のジャケット


 「I̾N̾2̾D̾E̾E̾P̾」以降のChildsplay作品で特に惹かれたのは、マルセル・デューン×ナラによる「☠ ɖɛǟɖ ɛռɖ ʝօɮ ☠」(2021)だ。ロンドンのテクノ・シーンで活躍する女性2人がコラボした作品で、破壊的かつヘヴィーなビートを刻むダンス・ミュージックが収められている。ダークで硬質な音色の数々を聴くと、サージョン、レジス、ブラワンといったインダストリアル・テクノが脳裏に浮かぶが、性急なグルーヴはサイケデリック・トランスやガバを想起させる。
 ジャケットもおもしろい。メガデス『Killing Is My Business... And Business Is Good!』(1985)といったメタル・アルバムのデザインとゴス要素をY2K時代の3Dアートでコーティングしたようなヴィジュアルは、TikTokが普及に貢献したサブカルチャーとしても有名なE-girls And E-boys的センスが感じられる。

Soft Grunge「.。​.​:​* ☆​:​. 𝐗𝐗𝐗 :​.​☆​*​.​:​。.」のジャケット
Soft Grunge「.。​.​:​* ☆​:​. 𝐗𝐗𝐗 :​.​☆​*​.​:​。.」のジャケット


 E-girls And E-boysは2010年代後半ごろから出現したムーヴメントだが、興味深いことにChildsplayは2010年代の要素が色濃いレーベルだ。たとえば、19歳のウクライナ人であるソフト・グランジのEP「.。​.​:​* ☆​:​. 𝐗𝐗𝐗 :​.​☆​*​.​:​。.」(2022)は、その要素を明確に示す作品と言える。海外のサブカルチャーに詳しい人はソフト・グランジというアーティスト名を聞いてすぐにピンときたと思う。2000年代後半から2010年代前半にかけてTumblrを中心に盛りあがったファッション・トレンドと同名だからだ。ちなみにソフト・グランジは、E-girls And E-boysに影響をあたえたことでも知られている。

 近年のChildsplayは、E-girls And E-boysといった現在の潮流を意識しつつ、ソフト・グランジを筆頭とした2010年代前半のカルチャーもノスタルジーの対象として見る興味深い視点が鮮明だ。設立当初からレーベルを知る筆者からすると、なぜこうした変化に至ったのか今でもわからないところが多い。それでも確実に言えるのは、Childsplayのサウンドとヴィジュアルが現在のサブカルチャーと深いところで共振する魅力で溢れているということだ。



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