NewJeans(뉴진스)の新しさと危うさ


NewJeans
NewJeans(뉴진스)

 NewJeans(뉴진스)は、2022年にデビューした韓国の女性グループだ。メンバーはミンジ、ハニ、ダニエル、ヘリン、ヘインの5人。全員10代で、最年少のヘインは現在14歳である。所属事務所はBTS(비티에스)を抱えるHYBE傘下のADORだ。かつてSMエンターテインメントでf(x)(에프엑스)やRed Velvet(레드벨벳)などのアルバム・コンセプトを手がけたミン・ヒジンがプロデュースしたグループということもあり、デビュー前から大きな注目を集めていた。

 筆者が彼女たちの音楽を聴いたきっかけは、今年7月22日に公開された“Attention”のMVである。アップテンポなビートに甘美なサウンドスケープが交わるR&B調の曲で、昨今のK-POPのなかではシンプルなプロダクションに聞こえた。メロディーは耳馴染みが良く、一度聴いたら口ずさめるキャッチーさがある。純粋なR&Bというよりは、ほのかにハウス・ミュージックのフィーリングも見いだせるグルーヴだからか、バス・ノアールといった折衷的音楽性が売りだったR&Bグループを連想した。あるいは、ダンジャの性急なノリのトラックに、リッチ・ハリソン的な甘い雰囲気を被せたような音とも言えるだろうか。

 “Attention”のMVを公開した次の日、彼女たちは新たなMV“Hype Boy”をリリースした。ミンジver、ハニver、ダニエル&ヘリンver、ヘインverという4パターンのMVが作られたこの曲は、ムーンバートンの要素が際立つ爽やかでダンサブルなポップ・ソングだ。CLC(씨엘씨)“Meow Meow”(2017)や(G)I-DLE((여자)아이들)“LATATA”(2018)など、K-POPにおいてムーンバートンは珍しくないジャンルのひとつである。そうしたこともあり、“Attention”を初めて聴いたとき以上の驚きは感じなかった。とはいえ、心地よい横ノリでリスナーを揺らすグルーヴなど、魅力が多い上質な曲なのは間違いない。

 “Hype Boy”のMV公開から2日後、“Hurt”のMVが私たちの元に届けられた。“Attention”や“Hype Boy”とは打ってかわり、BPMを抑えた静謐な曲だ。ビートの手数は少なく、派手な音色も見られないため、先に公開された曲よりも地味な印象を抱いた。それでも、装飾に惑わされず、彼女たちの歌声を楽しめる曲としては聴きどころもなくはない。

1st EP『NewJeans』(Bluebook ver.)

 そして2022年8月1日、待望のファーストEP『NewJeans』がデジタル・リリースされた(フィジカル版は同年8月8日発売)。本作のサウンドを語るうえで見逃せないのは、“Attention” “Hype Boy” “Hurt”に250ことイ・オゴンが参加していることだ。250はITZY(있지)“Gas Me Up”(2021)やNCT127(엔시티 127)“Chain”(2018)といったK-POPグループの曲を作る一方で、ポンチャックのルーツを現代的に再構築したアルバム『PPONG』(2022)を発表するなど、多彩な活動が目立つDJ/プロデューサーである。

 本作で楽しめる250の姿は、前者のほうだ。彼女たちに合う曲を作るプロデューサーとして、穏当な音を作りあげている。執拗に細かくリムショットを連打する“Gas Me Up”でうかがえた奇特なプロダクションは見られない。この点は評価が分かれるかもしれないが、筆者はあたえられた役割によって姿勢を変える250の順応性にあらためて拍手したい。順応性を支える豊富な引きだしは高く評価できる。
 “Attention”、“Hype Boy”、“Cookie”、“Hurt”の4曲を収めた内容は、音楽作品としてのサプライズはほとんどない。“Cookie”以外は本作の発表前に公開済みだからだ。しかし、これまでのプロモーションやアーティスト写真なども含めた総合芸術の一部としての本作は、驚きが多い。なかでも、広げると1枚の絵のように見えるBluebook verのアウトボックスは、良く出来たデザインだと思う。強いて言えば、六角形のレコードジャケットを開くと、映画『アンドロメダ…』(1971)のワンシーンで構成された中ジャケットを楽しめる『The Andromeda Strain (Original Electronic Soundtrack)』(1971)みたいだ。そういう意味では、懐かしさを感じる者もいる仕掛けかもしれない。

ル・セラフィム
LE SSERAFIM(르세라핌)

 本作も含め、NewJeansのアートワークやヴィジュアルは非常に興味深い。ヴィジュアル面から最近のK-POPを見ると、『VOGUE』や『Harper's BAZAAR』といったファッション誌でよく見かけるモード系のイメージを打ちだすグループが多くなったと感じる。なかでもそのイメージが強いのはLE SSERAFIM(르세라핌)だ。モノトーンにまとめた衣装は、まさにモードど真ん中である。写真の構図も、ルイーズ・ダール=ウォルフ、リリアン・バスマン、フランシス・マクローリン=ギルなど、モード系のファッション誌で活躍してきたフォトグラファーの系譜を想起させる。
 近年のITZYもモード的なイメージを引用することが多い。2020年のEP「Not Shy」で使われたジャケット写真のフォントは、『VOGUE』や1960年代の『Glamour』の表紙デザインに通じる。こういった表現を追求してきた影響か、ITZYは『Harper's BAZAAR』2022年1月・2月合併号のカヴァーも飾っている

 こうした潮流が強いK-POPシーンにおいて、NewJeansのヴィジュアルはオルタナティヴと言っていい。モノトーンとは真逆のカラフルな衣装を身につけ、身近なストリート感を醸す意図が際立つ。
 公式サイトにアップされているアーティスト写真を見ると、過剰なメイクを施さず、ナチュラルな雰囲気を演出した写真が多い。女の子の日常的な空気を漂わせながらも、どこか幻想的な匂いもするそれは、2010年代初頭に台頭したペトラ・コリンズやオリヴィア・ビーといったフォトグラファーの感性を彷彿させる。

NewJeansのメンバー、ダニエル
ダニエル(NewJeans)

 公式サイトのデザインにも、2010年代初頭のカルチャーが散りばめられている。サイトにアクセスすると、1990年代中頃のインターネット黎明期にホームページ・ビルダーで作られたようなページが飛びこんでくる。ボタンをクリックすると無機質な8ビット風シンセの音が鳴ることも含め、全体的にレトロな作りだ。
 こういったデザインを見て脳裏に浮かんだのは、シーパンクという音楽である。 2011年頃にtumblrやSNSで勃興したとされるムーヴメントで、1990年代の色鮮やかな3Dネットアートやグラフィックを多用したアートワークが特徴だった。ジャンルとしての盛りあがりは短命に終わったが、リアーナなどさまざまなアーティストに影響をあたえるなど、2010年代の音楽において存在感を放った。

 NewJeansの公式サイトやアーティスト写真を見て、《2010年代前半のポップ・カルチャーも、再発見の対象となるほどの遠い過去になったのだろうか?》と考えずにはいられなかった。しかし、そんな考えにとらわれるのは、私は固定観念に縛られていると自白するようなものかもしれない。老いさらばえた筆者のような人間からすれば再発見だとしても、2010年代前半はまだ幼かったであろう彼女たちと同世代のリスナーからすれば、驚きと興奮でいっぱいの新発見になり得るのだから。

Ultrademon『Seapunk』のジャケット
Ultrademon『Seapunk』

 性別や人種にとらわれない現代的な心の繋がりを描いた“Hype Boy”のMV群が滲ませる価値観や、全員10代というメンバー構成などから察するに、NewJeansのメインターゲットは2010年代前半のポップ・カルチャーすらもクラシックの棚に収められている時代に生まれた若者だろう。そんな若者たちがNewJeansの表現に触れてどのような想いを抱くのか、とても楽しみだ。
 それでも、いまのところ筆者はNewJeans(というより彼女たちを囲む大人たち)を全肯定する気にはなれない。若くしてデビューしたソルリ(f(x))の顛末をリアルタイムで見てきた1人として、幼さが残る彼女たちに多くを背負わせることへの危うさは無視できないからだ。
 また、性別や人種にとらわれない心の繋がりを表している点も、いまのところ匂わせの域を出ていない。この点はクィアベイティングと批判される可能性もあるが、そうしたことも予見しながら“Hype Boy”のMV群を作り、彼女たちに演じさせたのかは気になるところだ。

 さらに、“Hurt”のMVを初めて観たとき、強烈な違和感を抱いたことも書いておきたい。少し霧がかったような映像とメルヘンチックな雰囲気が印象的なこのMVに、デイヴィッド・ハミルトンの写真や映画に通じる濃いめのロリータ要素を見いだしたからだ。とりわけメンバーの唇や目元をたびたびアップに映すカメラワークは、性的消費を促しているという指摘があってもおかしくないと思う。
 かつてIUやソルリによる過剰なロリータ表現が批判を受けるなど、K-POPシーンでは少女を消費することの危険性が議論されてきた。成熟しきっていない人間が性的まなざしに晒され、精神的にも肉体的にも苦しむ可能性を考えれば、出てきて当然の動きと言える。今年5月にはaespa(에스파)がSNS上でセクハラ被害に遭うという事件もあったのだから、なおさらだ。

左からソルリとハラ(KARA)
左からソルリ、ハラ(KARA)

 もちろん、性的まなざしから逃れる道もなくはない。デビュー当初は幼さが残っていたIUは、25歳になった心情を歌った“Palette”(2017)、30歳を迎えるにあたって20代を振りかえったアルバム『LILAC』(2021)など、節目で成長をアピールすることで、大人の女性像を確立してきた。
 IUの親友であるソルリも、大人の女性になった。しかしソルリの場合、大人になる過程でさまざまな誹謗中傷を受けている。女性が人工妊娠中絶する権利を奪っていた堕胎罪は、憲法に合致しないと韓国の憲法裁判所が判断した際に祝福のコメントを残すなど、自分の意見を隠さなかったからだ。しかもその意見は女性を取り巻く抑圧への抵抗を示すものが多かったため、主に女性嫌悪者から暴力的な言葉を投げつけられた。そのなかには、ロリータ要素を用いてメディアに出ていたことをからかうものも少なくなかった。それでも毅然と意見を発信しつづけていたが、悪質なコメントに耐えきれなくなったソルリは、2019年10月14日に自らこの世を去った。
 過去に纏ったイメージは、未来の自分を締めつけることもある。性的まなざしに唾をつけられてしまったら、そのまなざしにそぐわない立ち居振る舞いをした途端、苛烈な攻撃を受けてしまう。この残酷さを筆者は、ポップ・カルチャーに関する業界の中の人として、多く見てきた。

 今年7月、ミン・ヒジンに批判が集まった。NewJeansのMV群は未成年を性的対象化していると指摘された流れで、ミン・ヒジンがインスタグラムにアップした半裸の少女の写真がペドフィリア(小児性愛者)趣味だと非難を受けたのだ。正直、問題の写真だけでは、ミン・ヒジンがペドフィリアと断定するのは難しい。とはいえ、発表済みのアーティスト写真やMVをふまえて見ると、懸念を抱く者の気持ちも理解できる。プロデューサーとして、何かしらのイメージで包まれた商品を作りあげ、市場に差しだすのは責任が伴う行為だからだ。当然、これからNewJeansが受けるであろうまなざしにも、無関係ではいられない。先述した残酷さは、彼女たちにも降りかかる可能性があるのだ。このことを忘れずに、今後もNewJeansの活動に注目していきたい。
 

 


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