畏怖と共に愛聴しながら、抱えているモヤモヤ (G)I-DLE『2』


(G)I-DLE『2』のジャケット

 K-POPにおいて、自ら作詞/作曲に関わるグループは珍しいものではなくなりつつある。それでも、5人組グループ(G)I-DLEのセルフ・プロデュース度は群を抜いていると言えるだろう。リーダーのソヨンを中心に、メンバーたちが創作に深く関わるだけでなく、そうして創りあげられた表現の質も高いのだから。

 この魅力は、今年1月29日にリリースされたセカンド・フル・アルバム『2』でさらに増している。本作に触れてまず目を引いたのが、ソヨン以外のメンバーがより自分の色を出しているところだ。全8曲中半分はソヨンの手を経て生まれた一方で、もう半分はミンニ、ウギ、ミヨンのいずれかが作詞/作曲で参加。これまでも、作品を重ねるごとに色は多彩さを高めていたが、本作ではそれが飛躍的とも言えるレヴェルでおこなわれている。今後の創作における幅広さと自由への道が舗装されたという意味で、このような変化は肯定的に評価できる

 コンセプトは、もはや(G)I-DLE節と言っていいものだろう。誰にも媚びず、主体的かつ自身の想いに忠実な力強い女性像を前面に出している。
 なにしろ、リード曲のタイトルが“Super Lady”である。私は神のような存在だと宣言し、ついて来なさいレディーたちと歌ってみせる。いわゆるガールクラッシュ系と呼ばれるグループでも、近年は強さ以外の要素を打ちだすことが少なくない。だが、(G)I-DLEは、そうした流れと合流することにあまり関心がないようだ。いつもどおり、自分たちがやりたい表現をやっている。

 しかし、従来の路線を深化させただけかと言われたら、そうではない。たとえば、ミンニが作詞/作曲で参加した“7Days”は、愛する人が頭から離れないことを率直な言葉で歌ったラヴ・ソングだ。さらに、ウギが作詞/作曲に加わった“Rollie”では、定型にとらわれない恋愛スタイルと仲間との深い絆を描く。これらは、ソヨンの曲で目立つフェミニズム的側面とは違った視点を歌い、(G)I-DLEというグループに新たな表情をあたえている。持ち前の魅力を深化させるのみならず、過去の自分たちにあぐらをかかない進化も本作を楽しむうえで見逃せないポイントだ。

 (G)I-DLEといえば、“Nxde”(2022)や“Allergy”(2023)を筆頭に、社会批評の色合いが強い曲を残しているのも魅力だが、それは本作でも顕著だ。ルーティン化された機械的生活のストレスと疲弊感を歌った“Fate”、女性の性役割への疑問をストレートに表した“Wife”など、日常に根ざした視点を忘れない問題意識が際立っている。こうした批評眼は、(G)I-DLEの知性を示すと同時に、その他大勢のK-POPグループという枠に埋もれない強烈な個性をあらためて証明するものだ。

 『2』は、たくさんのおもしろさと知的興奮が詰まった素晴らしい作品だ。それだけに、サウンド面での尖りが少ないのは、寂しいといえば寂しい。ベースメント・ジャックス“Rendez-Vu”(1999)のラテンチックなダンス・トラックをEDMリミックスしたような“Super Lady”、大仰なロック・サウンドと太いキックの交わりが『Human After All』(2005)期のダフト・パンクを想起させる“Revenge”など、それぞれの曲のクオリティーは決して低くはない。とはいえ、いくつもの要素を組みあわせた、手堅いが無難とも評せてしまう音が目立つのも事実だ。強いていえば、ピンクパンサレス的な淡いダンス・トラックを鳴り響かせる“Vision”は、これまでの作品と比較したら冒険的と言っていい。
 それでも、(G)I-DLEならもっと高いレヴェルで先鋭性と親しみやすさを共立させることができるのではないか。過去には、アストル・ピアソラに通じる3拍子のラテン・ミュージックを上手く取りいれた、「I Made」(2019)という秀作を作りあげたのだから。そんなモヤモヤを抱えながら、『2』を愛聴している。


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