Mealtime「Aperitif」が鳴らすFuck Toxic Positivity


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 イギリス・マンチェスターで結成された6人組バンド、ミールタイムによる“Sublime”のMVを観たのは去年のこと。マドンナ“Music”(2000)のMVを彷彿させるリムジンのシーンに、ティガ『Sexor』(2005)やフィッシャースプーナー『#1』(2001)に通じる妖しいエレ・ポップ・サウンド。これらの要素は、2000年代のポップ・ミュージックに影響を受けたバンドだと容易に直観させた。
 “Sublime”のMVを観たあと簡単に調べてみると、LCDサウンドシステム、ホット・チップ、ジャスティスといった2000年代のアーティストを影響源に挙げているインタヴューを見つけた。あまりのわかりやすさに笑みを浮かべつつ、筆者が10代の頃に聴いていた音楽たちは多くの種を蒔いたのだなと、嬉しい気持ちでいっぱいになった。

 「Aperitif」はミールタイムのデビューEP。全6曲が収められ、バンドの才能を紹介する名刺としては及第点の作品だ。クラブのサウンドシステムで聴きたくなる強烈な低音は、テクノやベース・ミュージックの影響を受けているのか?と思わせる。3拍目にアクセントをおいた“S.P.E.C.I.A.L”のビートから漂うUKガラージ臭を嗅ぎとれる者なら、なおさらそう感じるだろう。
 とはいえ、基調にあるのはメロディーを強調したエレ・ポップだ。歌とラップの間を漂う歌唱法、語感の良さが光る歌詞など、一度聴いたら耳に残るキャッチーさが際立つ。

 お気に入りの曲は“Sublime”だ。音数が少ないミニマルなトラックは高いビート作りのセンスを醸し、随所で使われるディレイやリヴァーブがダブ的なのがおもしろい。
 ただそれは、キング・タビーやエロール・トンプソンなどのルーツ・ダブではなく、ルーツ・ダブを独自に解釈したダブ・サウンドだ。プライマル・スクリーム『Vanishing Point』(1997)のように、ロックの視点からダブを取りこむことで生まれた折衷的ダブ・サウンドに近い。

 「Aperitif」を聴いて強く実感したのは、ミールタイムは歌詞も悪くないということだ。ダンサブルなグルーヴは快楽の海に潜ることを厭わないが、そのグルーヴに乗る言葉は気持ち良さや楽しさだけではない。淋しさや虚脱感といった情感を随所で漂わせ、“Excess”ではシニカルな顔も覗かせる。
 このような多面性が筆者は好きだ。常に前向きでいるよう迫る姿勢は、見つめるべき問題や怒りから目を逸らし、抑圧的でストレスにまみれた状態に人を追いこむこともあるのだから。

 そうした有害なポジティヴィティー(Toxic Positivity)に陥らないからこそ、ミールタイムの音楽に宿る快楽は凡庸な現実逃避で終わらず、生きづらさを抱える人々の誘導灯になれるのだ。



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